第7話:事情聴取④開始

俺は彼女を、もう一度、嘘発見器にかけた。

だが、やはり嘘はついていない。

「わらわは、誇り高き魔法王国カインハートの王女にして建国の魔術師ローリエンスの末裔、アルテミシアンであるぞ…。」

彼女の発言は変わらない。

だが、彼女の瞳は曇り、普段の明るさは消え失せ、目に見えて動揺を隠せずにいる。

「わらわは迫り来る多くの魔物を倒し、邪悪な魔族から王国を守り…」


「守り…」


「…あぁ。」


「わらわは…」


「わらわは、誰じゃ?」


俯く彼女の瞳に、涙が零れた。

俺は先日後輩が見せてくれた動画を思い出す。

その動画の中では、豪華な衣装を着た少女が、杖を降り敵を魔法で倒していた。

ただし、敵は、巨大なテレビ画面の中にいる。

部屋を丸ごと包み込むように設置されたテレビ画面の中の敵はリアルであり、映像の中の少女は、その迫り来る敵の大群に向けて杖を振り翳し魔法を放つ。

だがそれは所詮、バーチャルな世界の出来事だった。

しかし、その少女はゲームの中の出来事に、

時に心から喜び、

時に心から悲しみ、

天真爛漫を絵にしたように表情豊かに、

まるで現実の事のように、ゲームと相対していた。


「わらわがしてきた事は、守ってきたものは、頑張ってきた事は、全部、嘘だったのか? 教えてくれ…。」

俺は、既に彼女の真実を知ってしまっていた。

真実。

それは…。


ビジョンとは、巨大なテレビ画面だったのだ。


魔法とは、ゲームの中にしかない力だったのだ。


スコアとは、ゲームの中の架空のポイントだったのだ。


画面の中の少女は、目の前で悲嘆に暮れる彼女だ。


相棒によると、以前、ある画像サイトでこの少女の映像が出回り、すぐに削除されたらしい。それ以降、何度か動画のアップと削除が繰り返しており、アングラなオタクの中では、「女神様降臨」「魔法少女様キター」などと伝説になっているとの事だった。


「教えてくれ…。わらわは、誰じゃ…。いや、知りとうない。思い出したくない…。思い出したくないよぉ…。」

彼女の嗚咽が、部屋を支配する。


ヒックヒックとしゃくりを挙げる彼女の嗚咽以外の声はない。

掛けられる言葉も、思いつかない。


(事情聴取④終了)



部屋の中を写す防犯カメラの起動音が、妙に耳障りだった。

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