第3話:考察
「あの娘、何者なんでしょうねぇ。」
俺と一緒に彼女の身元を捜査している相棒が、俺に向かって呟いた。
俺が知りたいくらいだよ。
取り敢えず、彼女の話を纏めよう。
彼女は、世界に一つしかない国に住む、魔法使いのお姫様。そして今、彼女の国は魔族に攻められていて、彼女はビジョンの中から迫り来る魔物を魔法を用いて撃退している。
だ、そうだ。
…。
信じられるか! 馬鹿らしい。
まるで子供の作り話だ。
彼女はただのコスプレ少女だ。魔法使いのお姫様でなどあるものか!
だが、それを頭から否定できない幾つかの事情があった。
まず、彼女は嘘をついていない。
嘘発見器にかけても全く反応は無く、彼女自身は自分の話を完全に現実のものとして認識しているのだ。
精神鑑定にもかけたが、一部の記憶の損失以外に、異常は見られない。
…彼女がこちらの世界に来た瞬間の記憶のみ曖昧だが。
それだけではない。
彼女の唯一の持ち物だった、身に纏っているドレスや手にした銀杖が、余りにも精巧すぎるのだ。
紫色の生地を用いたドレスにはロココ調の刺繍が繊細に施され、一見して簡単に作成、購入できるものではない。
また、金色の鷲の像が飾り付けられた彼女の持つ銀杖も、見た限りでは頑強かつ精巧なデザインで作られており、これまた容易に手に入るような作りではない。
少なくとも、遊びのコスプレで用いるような代物では無かった。
そして何よりも、信じ難いことは、
彼女は余りに『ものを知らな過ぎる』ことだ。
確かに彼女は俺達と同じ日本語を喋っている。
だが、彼女はニホンという言葉を知らない。ビルも携帯電話もカメラも知らない。
しかも彼女は嘘はついていないのだ。
もし仮に彼女が、本当に外国の王女様だったとしても、だ。
そこまで一般常識を知らないなどということがあるのだろうか?
まさか、
彼女は本当に、『異世界から来た魔法使いのお姫様』だとでも言うのか?
俺はそこで、ふと事情聴取の最中の、「ここはどこじゃ?」「早く帰りたいのぉ。」と、そう呟きながら真っ直ぐに俺を見詰める彼女の真っ直ぐな瞳を思い出す。
…純真で無垢な瞳だった。
俺は彼女の話を、ほんの少しだが、信じたくなっている自分を自覚していた。
と、そんな時。
俺の隣で頭を掻く相棒が、ボソリとつぶやく。
「あの娘、どっかで見たことがあるんすよねぇ。どこだったけ…?」
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