第4話:事情聴取②開始

捜査は進められている。だが、進展は全くなかった。


「そこでわらわはビジョンの中を進み、第二魔界幻想門に辿り着いたのじゃ。その道中は大変なものじゃったぞ。刃と松明を手にしたグールや頭が鴉に変貌した野犬の群れをわらわは新たに得た新魔法【彼方への聖光】を駆使しながら、やっと辿り着いた門の前で、待っていたのは、巨大な右手と長い角のヤギの頭を生やした炎の魔人が…」

「ほうほう、炎の魔人かぁ。」

相変わらず、彼女の話は荒唐無稽であり、手掛かりにならない。

「炎の魔人と対する時は、わらわの大魔法【マダラカスの汽笛】が活躍してのぉ。倒した時に得たスコアも凄くてな。国を挙げて宴が開かれたものじゃったぞ。」

「ふんふん、スコアも凄かったんだぁ。」

相棒が彼女の話を聞きながら相槌を打っている。

ほとんど聞き流しているが。

気持ちはよく解る。

だが、これは捜査だ。真剣に取り組まねば、と、俺は自分を戒める。

それでも苛立ちを覚えながら、俺は背広のポケットから煙草を取り出し、手にしたライターで火を点ける。

「おお~、そなたも魔法が使えるのか?」

手元で点火されたライターの火を見て、彼女が素っ頓狂な声を挙げた。

「そなたも魔法使いであったのか…。何故、早く教えてくれなかったのじゃ!」

「いや、これは魔法じゃなくてね。ライターといって…、」

「ライタァ? それはなんなのじゃ? わらわに教えよ!」


…万事、こんな具合で事情聴取は進んでいた。

「ふぅ」と相棒が溜息を吐く。

その時、彼女が俺達に言った。

「そなたらが、わらわの話を信じていない事はよく解っておる。わらわも馬鹿ではないからな。そしてここが、わらわの知らない世界だという事もなんとなく理解しておる。」

…。

「そして、そなたらが、ただの与えられた役割なのかも知れぬが、わらわの為に取り計らってくれているのも、解っておる。」

…観察されて、見透かされているのはこちらもだったか。彼女は頭がいい。

「だからこそ、この世界での唯一つの繋がりであるそなたらには、わらわの話を信じて欲しいのじゃ。」

…。

迂闊だった。

彼女も、自分の知らない世界に放り出されて、心底に不安なのだ。そして、彼女も必死なのだ。

その事に気付かされた俺は、自責の念に駆られる。


「そなたらにわらわの魔法を見せれば、そなたらは、わらわを信じてくれるかのぉ?」

「…見せてくれるのか?」

「うむ。本当はビジョンの無い場所では魔法は使ってはならないと師匠から厳しく戒められているのじゃが、そなたらは特別じゃ。」

彼女の願いを聞き入れた俺達は、彼女を連れて場所を変えた。

広い場所が彼女の希望だった。

本館裏の広い敷地で、

彼女は杖を翳し、

厳かな口調で、呪文を唱え始めた。

「ジュゲエムジュゲエムゴコーオノスリキーレ…」

…?

「カイジャリスイーギョスイーギョスイヨーマーツ…」

…これって?

「出でよ、炎の柱【小さなトルトニア】!!」

彼女が勢いよく杖を地面に向ける。

が、何も起きなかった。

「え?」

呪文の不発に困惑する彼女。

「つ、次じゃ! 他の魔法を使うぞ!」

再び彼女が杖を翳す。

「フーライマーツウンライマーツクーネルトコロー二スムトコーロ…降り注げ!氷の嵐【奇跡の聖歌】!】

…が、何も起きない。

彼女は、何度も呪文を唱え、杖を翳す。が、炎の柱も氷の嵐も、煌めく雷鳴も轟く閃光も、何も起きない。

「なぜじゃ。なぜ、魔法が使えぬ…。」

地面に向かって俯く彼女を連れて、俺達は所内に戻った。

…使えない魔法。そして、今の呪文の文句…。

「なぁ。」

落ち込む彼女に俺は質問をする。

「今、君が唱えた呪文の言葉の、その、意味って知ってるのかな?」

「呪文の意味? 師匠からは一万年前から伝わる聖なる言葉だと聞いておるのぉ。」

そうか。



(事情聴取②終了)




真相に一歩、近付いた。だが、悪い予感がする。

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