剣聖は自宅を新しくしたい

 オーランドは襲撃があった数日後、アメリア、シャルロットに協力を要請して自宅の修復に取り掛かった。


「あんたの家こんなとこにあったのね」


 アメリアは初めて訪れるオーランドの自宅(半壊)を見て感慨深い気持ちになった。


「んな辺鄙なとこじゃ不便すぎんだろ」


 シャルロットは辺りを見渡して森しかないことにちょっと引いていた。


 今回二人はオーランドから自宅改築を請け負った。オーランドはある程度強固な家ができればいいと思っていた。鍛治士のシャルロットには家の素材に最適なものと万が一のための武器防具と、元宮廷魔導師のアメリアには軽く魔法防衛システムを組んでもらうつもりであった。もちろん、経費含めてお金は払う。


 しかし、オーランドには誤算があった。それは襲撃事件を聞いた二人が軽くすませるわけがないということである。


 彼女達は自分にできることの最大限をこの仕事にこめるつもりであった。剣聖であるオーランドが負けることは億に一にもないが、それでも心配はあった。それに大好きな人の家を自分好みに改築できるとあれば手を抜く道理はなかった。


 シャルロットはオーランドに運ばせた荷車から木材を運んでいく。


 オーランドはここに来るまでに何個もの荷車を運ばされていた。内心こんなにいるのかと思いながらもシャルロットのことだから訳があるだろうと何も言わずに運んできていた。


「その木材を使って家を立てるのか? 」


「ああ。そうだぜ。コイツは特別な木から作られた材木でな。魔力との親和性がミスリルと同等なんだよ」


 シャルロットは木材を触って答える。ミスリルとは金属の中で最高峰の魔力親和性を持ち、列車にも使われている現代ではなくてはならない金属である。


「そいつはすごいな」


 オーランドは気合いの入り方が予想以上でこれから出来上がる家に期待が膨らんだ。


「あぁ〜、アメリアだっけ? わりぃんだけどこの設計図通りに魔法で家建てれたりすっか? 」


「問題ないわ」


 アメリアはシャルロットから渡された設計図を見る。じっくりと読み込んだあと、オーランドに許可をとり半壊した家をバラバラに砕く。破片を空の荷車に乗せる。その後設計図通りに木材を組み立てていく。


「できたわ」


 数分で家が立った。二階建ての家だった。前の自宅よりも明らかに大きくざっと三倍の大きさはあると思った。


「すげぇな」


「ああ」


「呆けてないで中に入るわよ。まだ防衛するための魔法はかけてないんだから」


 アメリアは新しい家の前まで来ると立ち止まった。


「どうした? 」


「こういうのは家主が先に入るもんでしょ? 」


 アメリアはオーランドが来るのを待っているようだった。オーランドは家の前にきてガチャとドアを開けて中に入っていった。オーランドに続くようにアメリア、シャルロットが中に入っていく。


「……広いな」


 中の広さは前の自宅とは別物だった。家の全ての部屋を見て回ったが、間取りは5LDK +隠し部屋と床下の倉庫といった感じであった。正直一人で暮らすにはもったいない広さであった。


 オーランドが部屋を見回っている中、アメリアとシャルロットは各々の仕事をしていた。アメリアは魔法を限界までにかけて、シャルロットは持ってきた武器や防具を部屋のあちこちに置き、さらに所有者と設計者にしかわからないところにまで置いていく。また、アメリアと協力し、武器、防具自体にも防衛魔法をかけていく。


 オーランドが二人に声をかけて休憩に入るまでには全ての作業は完了していた。この家は王城並みの防衛力を持った。加えて剣聖がいるこの家は世界一安全な場所となった。


 リビングにはもう既に家具一式が揃っていた。アメリアが家を建てる時に一緒に作ったのだろう。オーランドはアメリアの魔法に感嘆した。しかし、オーランドは魔法が使えないためほとんどが無意味であった。


「今日はありがとう二人とも。助かった」


「いいわよ。別に」 「おう」


 オーランドが頭下げると二人らしい返事が返ってきた。


 三人は椅子に腰掛けて、アメリアが持ってきてくれたコーヒーを飲む。とても甘かった。


「にしても広いわね。こんなに広くなくても良かったんじゃないの? 」


「……別にいいじゃねぇか。広くたって」


 シャルロットは顔を赤くして答えた。彼女は設計図をオーランドのことを考えながら書いていた。


 オーランドならどんな家に住みたいか、どんな家が相応しいかと。そんな時オーランドなら家族と暮らす家をどんな家にするかを考えた。妻がいて、子供は何人いてと考えて書いていた。妄想の中の妻は当然シャルロット本人だった。


 設計図が出来上がってしばらくした後に正気に戻って羞恥に身悶え、なぜ自分を妻においたのかと自問自答した。


 しかし、書き直す時間はなく設計図自体オーランド一人には大きすぎる以外の欠点はなかったのでこの設計図のままにした。


 ――――本当は自分とオーランドのまさしく愛の巣とも呼べる設計図を書き直したくなかっただけだったが、シャルロット本人にはその理由が明確には分からなかった。


「そうだな。広いことはいいことだ。本当にありがとう。この家、とても気に入った」


 オーランドは再度二人に対してお礼をいった。


「まぁ広いのはいいけど、家の手入れはしっかりしなさいよ」


「そうだな。二人は定期的に来ることになるだろうからな」


「「え? 」」


「ん? てっきり定期的にメンテナンスしに来てくれるものだと思っていたが……違ったか? 」


 オーランドはここで自分の計画を見誤ったかと思った。本来木材や武器防具等を運んでいる最中に家の大きさと防衛について過剰になることはある程度予想していた。それなのに止めなかった理由は二つある。


 一つは恋愛指南書「モテる男の空気の読み方」に女性が気合いを入れている時は水を刺さず黙って従うのが吉であると書かれていたこと。


 もう一つは定期的なメンテナンスはオーランドが魔法を使えない以上確実に必要であり、これを口実に家に呼べる。家が広ければ広いほどアメリアは魔法をかけてくれるので一回にかける時間が長くなり、家に来る回数も増えると踏んだからである。


 武器防具に関してはシャルロットが定期的に来てくれる。家に基本誰も来なかったオーランドにとって友人が来てくれるのは普通に嬉しいことであった。シャルロットに申し訳なさはあるがお金で貢献するので許して欲しいと思った。


「そ、そうね。いつでも私が来ていいようにちゃんと綺麗にすることね」


「お、おう! 任せとけ! 」


 二人は動揺しつつも内心嬉しさでいっぱいであった。オーランドの元へ理由をつけて行けることは二人にとってありがたかった。


 オーランドは二人の反応に安心し、コーヒーを飲んだ。そして気づいた、魔法使えない状態でどうやっておもてなしをするのか。今回はアメリアがコーヒーを持ってきてくれたが次回からはそうはいかないだろう。

(とりあえず、魔石買わないとな)


 魔石は魔力がこもった石で大量生産できるようになってから一般人でも買えるようになった。しかし、本来何回か魔力を流して何年ももたせる魔石は魔力をもたないオーランドにとって使い捨て前提の石であった。


 今回のことに合わせて出費が嵩んでいくオーランドであった。

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