剣聖は休日を静かに過ごしたい

 オーランドの家はラタエ郊外の山中の森にある。彼は魔法が使えない。そもそも魔力がない。その為現在流通している物のほとんどを扱えない。彼は魔力に頼らない生活をしている。火を起こすのも水を汲むのも全て自力で行なっている。狩りや山菜採りも行い基本的には自給自足の生活である。


 今日のオーランドは休みの日である。しかし、休日といえど気を抜かずいつもの時間に起き、歯を磨く。この家までやってきてくれる新聞配達員はいないので休日は朝刊を読めないのがネックである。読めない分は騎士事務所でとってあるので問題はないが少し手持ち無沙汰になってしまう。また、新聞を読んだあとは鍛錬と狩りぐらいしかやることがないことも問題だった。


 だが、最近その悩みを解決する出来事があった。記者レノア・コールマンとの出会いである。あの時以来オーランドは休日はレノアの記事とおすすめされた本を読んでいる。趣味を聞かれた時に(恋愛指南書の)読書。と答えたら騎士事務所にオーランド宛に定期的に本が送られてくるようになった。


 最初はレノアと仲良くなる為に読んでいたが、自分でも驚くほどにハマり現在ではレノアから送られてくる本が楽しみでしょうがない。


 今日もレノア選書の本を読もうとしたところ、家の上半分が爆発音と共に吹っ飛んだ。オーランドの自宅は事務所と違い何一つ魔法的な防御は施されていない。家も自身で建てたものである。襲撃は想定されていなかった。


 オーランドは手に取っていた本を念のため床下の倉庫に入れたあと、剣を取りドアをゆっくりと開けて外に出る。


「野蛮な挨拶だな。人の家を訪ねるときはまずノックだ」


「すまねぇな。俺たちには教養がねぇからよぉ」


 魔法銃、魔法機関銃、速射型の魔法銃を持ったガラの悪い男達がズラリと家を取り囲むように現れた。遠くにもチラホラと人がいる。恐らく魔法使いだろうとオーランドは考えた。


「さて、何のようだ。貴重な趣味の時間を台無しにしたんだ。それなりの要件があるだろうな? 」


 オーランドはリーダー格と思わしき男を睨みつける。その男は2m近くはある大柄な男で強面をスキンヘッドと頬の傷がさらに怖くしていた。身長の半分くらいのデカい筒を担いでいた。


「そりゃあ悪いことをしたなぁ。要件ってのはぁシンプルでよぉ。テメェの命を貰いにきたのさぁ 」


 男は担いでいた筒をオーランドに向ける。それを合図にオーランドに向けて次々と銃口が向けられた。


「ほう。お前の顔に見覚えはないが。何か恨みでも買うようなことをしたか? 」


「恨みじゃあねぇなぁ。テメェの首は裏社会じゃあ結構な値段になってるんだぜぇ」


 男達は自らの武器に魔力を込め始める。


「そうか。詳しく聞かせてもらえるか? 」


「今から死ぬやつに話すことじゃあねぇだろうよぉ」


 一斉にオーランドに攻撃を放つ男達。筒からは巨大な火球が出て来た。他にも360度からの数多の弾丸、遠距離からの魔法攻撃の逃げ場のない攻撃にオーランドは剣を振り全てを無効化していく。


 銃弾を全て叩き伏せ、魔法は切り捨てる。


 何が起こったかわからず驚愕する男達を次々と叩きのめしていく。瞬きする間に攻撃は無力化され、もう一つ瞬きすると仲間が全て倒れていた。気を取り直した時にはリーダー格の男は膝をつき首に剣を突きつけられていた。


「さて、話してくれるか? 」


「……」


 男の話によると裏社会にも表と同じように手配書があり、手配書の人物を殺したり、拉致をすると報酬がもらえるらしい。ある組織によって手配書は公布されていて、その中で剣聖は多額の懸賞金をかけられていてさらに、死体のみが取引されるので殺しに来たとのことだった。


「ふむ。他に手配書に載っている人物は分かったりするのか? 」


「アンタの次に大きい金額をかけられてるのが義賊のジャックぐらいしかしらねぇ。最近は裏の手配書が出回らなくなってなぁ。いつだったかアンタが王都騎士隊にいた頃に何個かデケェ組織潰したろ? 情報漏洩を恐れて紹介制になったんだよぉ。全体にわかってるのはテメェと義賊のジャックだけだぁ。どっちも目の上のタンコブだからなぁ。最もジャックの方は何年も音沙汰ねぇからアンタを狙うしかねぇって感じさぁ」


 オーランドは即座に対応すべき事柄だと考えた。とりあえずは王都騎士隊の方に男の話を書いた報告書と男達の身柄を送ることにした。


「アンタは全部潰した気なんだろうが、生き残りがいたみたいでなぁ。寄せ集まって新しい組織を作ったんだぜぇ」


「そうか」


 オーランドはリーダー格の男を気絶させ、襲撃に来た全ての人物を縄で縛り上げて騎士事務所へと向かった。


 道すがら自宅を作り直すときはアメリアに協力を頼もうと思った。大事なものは床下の倉庫に保管してはいるが、日用品や調理器具、水瓶等日常生活に必要なものは全て床上にある為襲撃に耐える家でないと金がかかってしかないと思っていた。

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