剣聖は合コンでアドバイスする

 町民の相談を受けるのも騎士の仕事である。オーランドは喫茶店にてハリー・マーフィーという男から相談を受けていた。


「合コンに着いてきてほしい? 」


「はい。狙っている子がいるんですけど自信なくて。」


「オーランドさんはおモテになるでしょうから。力を貸してほしいと思いまして」


「なるほどな」


 オーランドは彼女いない歴=年齢の男であったが、自らの知識があればハリーを彼女持ちにすることができると思った。それに合コンにも興味があった。


「わかった。引き受けよう。ただし、俺は手助けするだけだ。最後は自分で決めろよ」


「はい! ありがとうございます! 」


 合コン当日の夜、オーランド、ハリー含め三人の男と、女性三人がバーのテーブル席に着席していた。


「まずは男性陣の自己紹介からいこうか 」


 注文をし終わった後、この合コンをセッティングした男が立ち上がり話し始めた。オーランドの第一印象は軽めの男だった。ピアスやネックレス、ブレスレット等とアクセラリーのオンパレードのくせに統一感がなく品がない男とも思った。


「俺の名前はウィリアム・ターナーです。仕事は駅員をやっていて趣味は旅行です。特技は水泳。よろしく」


 パチパチパチパチと拍手がなる。次はハリーの番だった。


「自己紹介は無難にいけ」


 オーランドは小声でハリーに指示を出した。ハリーは頷き、自己紹介を始めた。オーランドは今回恋愛指南書「絶対に彼女ができる合コン術」を参考にアドバイスをしていくつもりだった。そもそもオーランドには合コンの経験がないので本の知識頼りだったが、謎の自信が彼を支配していた。


「……特技はピアノが演奏できます。よろしくお願いします」


 ぺこりと頭を下げたあと席に着く。パチパチパチパチと拍手がなった。次はオーランドの番だった。


「オーランド・ハワードだ。仕事は騎士をやっている。趣味は読書。特技は格闘術だ。よろしく」


 オーランドが席に着いた後、パチパチパチパチと拍手がなる。女性陣は女性同士で目を合わせて何かを察している感じであった。剣聖効果だとオーランドは考えた。なかなかの好印象を得られたと思った。しかし、オーランドの役目はサポート。いつもと違い一歩引いた感じで行くつもりであった。


 次に女性陣の自己紹介タイムになった。オーランドはハリーから聞いた子の自己紹介を一番真剣に聞いた。


 名前はミラ・ブラウン。仕事は銀行員。趣味は映画鑑賞。特技は暗算。まずは普段の仕事の話から入り、特技、趣味とプライベートゾーンに入っていき、映画デートに誘うことができればOKと考えた。


 ハリーに作戦を伝える。その時にコツを教えた。ミラの話をちゃんと聞くこと。否定しないこと。常に気を配ること。これさえしっかりしていれば良いと教えた。オーランドは自信満々に答えていたがハリーにとってはもう少し具体的な作戦を所望していたが、オーランドが言うなら間違いないと実践してみることにした。


 オーランドはオーランドでこの合コンを楽しむ気でいた。合コンにおいて大事なことは団結である。主催者のウィリアム、ハリー、そしてオーランドが狙う子が重ならないようにすることが大事であった為、ウィリアムに誰を狙っているのか聞いた。幸運なことにハリーと狙っている子はかぶらなかった。ならばとオーランドは二人が狙っていない子に狙いを定めた。


 その子は花屋で働いているデイジー・モリスという子であった。黒髪のショートヘヤーで、目も黒色の女性だった。


 合コンが始まって一時間が経った頃には雰囲気は良い感じになっていて参加者の誰もがこの合コンは成功すると考えていた。ただ一人を除いて。


 花屋で働くデイジーは結婚詐欺師であった。婚約した男に貢がせるだけ貢がせた後行方をくらませることを何度も繰り返して指名手配になっていた。彼女はこの合コンでカモを見つけるつもりだった。しかし、騎士であるオーランドが来たことによって予定変更。この合コン会場から一刻も早くおさらばしたかった。


 オーランドの旅がさる質問に対してヒラリ、ヒラリと交わしていたが逃す隙を与えてはくれなかった。トイレに行って逃げようとしても酒が入って危ないだろうから途中まで送ると言われ、急用ができて帰ろうとするとやはり途中まで送ると言い出す。断ろうとしても騎士という立場をうまいこと利用して逃げ道を封じられていた。


 そんなことを繰り返している内に一時間が経っていた。いずれボロを出す前に逃げたいと思っていた。


「君を見ていると初対面な気がしないな。実は前に会ったことがあるんじゃないか? 」


「ハハ、そんな〜。初対面ですよ〜」


 オーランドは口説き文句のつもりで言ったセリフは彼女にとっては手配書に載っていなかったかと揺さぶりをかけられているようで一刻も早くこの場から去りたかった。


「やっと見つけましたよ。デイジー」


 パンという銃声と共に男がやってきた。長身の男であった。銃を店内で撃つような粗暴な男には見えず、どちらかというと紳士に見える男であった。


 店内の客達が男に怯えて、悲鳴をあげる。オーランドは全員に伏せるように命じた後、事態を収拾すべく男の前に歩み出る。


「俺は騎士のオーランドだ。なんのつもりか知らんが大人しくしてもらうか」


「次の標的は騎士ですか。なかなか大胆なことをしますね。」


 男はデイジーを睨みつけた。男の登場を利用して店から出ようとしたデイジーは動きを止めた。


「なんのことですか〜? 言ってることが〜よくわからないのですが〜? 」


「惚けても無駄ですよ。私はあなたとの思い出を忘れたことはありませんから」


 男は以前デイジーに金を騙し取られた被害者であった。男は執念の追跡でやっとデイジーを見つけたのである。


 オーランドはデイジーに未練を持った哀れな男だと思った。その未練を断ち切らせるための説得をオーランドは行うことにした。


「(彼女の心を)銃で取り戻せはしないぞ」


「そんなことは分かってますよ。でも許せないんですよ」


 男は震える手で銃口をデイジーに向ける。


「(一度は愛した女に)そんなことができるのか? 」


「できますよ。私は(裏切られたと知った)あの日からこのためだけに生きてきたんですから」


「そんなに震えていては外すだけだ。諦めろ。あんたに対してこの手だけは使いたくない」


 オーランドは剣に手をかける。オーランドの目には自分の心を見透かされているような気がして結局引き金を引けなかった。


 男は銃を落とし、膝から崩れ落ちて泣いていた。


 オーランドは男に近づき肩に手をかけた。


「(俺が彼女を幸せにするから)後は任せろ」


「……はい。よろしく、お願いします」


 オーランドはデイジーに近づいた。彼女は両手を差し出した。オーランドは立ち上げる手助けの為だと思い、触れようとした時デイジーが口を開いた。


「私もここまでか〜」


 オーランドの頭には? マークが浮かんだ。


「最初から気づいてたんだ。私が指名手配犯だって」


 オーランドはビクッとした。初耳だったからだ。だが、ここで動揺を見せると剣聖の威厳がない。


「言ったはずだ。初対面の気がしないとな」


「やっぱりカマかけだったか〜」


 その後襲撃犯の男とデイジーを騎士事務所に連れて行った。


 後日、ハリーから連絡があった。オーランドの言う通りにしたらデートに誘うことができたこと。デートが成功して付き合うことになったこと。また、主催者のウィリアムも付き合うことになったことを知った。結局オーランドだけが彼女を作れなかった。

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