剣聖は幼馴染をライバルと認めている

「ハワードさん。果し状が来てるみたいですけど」


 エレナが果し状と書かれた封筒をオーランドに見せる。


「ああ。そうだな」


 オーランドは動じず書類仕事を進める。


「行かなくていいんですか? 」


「ああ。俺も暇じゃないんでな」


 オーランドは果し状を無視していた。果し状自体は剣聖になってからかなりの頻度で来ている。基本的にオーランドはラブレターやファンレター以外を無視している。この果し状も先週のものである。


「本当は怖気づいたんじゃないか? 」


 オーランドは入ってきた青年を見て驚く。


「お前は……」


「久しぶりだな。オーランド」


「……アレン」


 入ってきた青年は真っ赤な赤髪が特徴的な男であった。青色の目は凛々しく強さを秘めていた。男の名はアレン・パウエル。オーランドと同郷でオーランドがモテる為に初めて真似た人物である。


 オーランドは久しぶりの再会を喜ぶべきか、アレンが果し状を出したことに困惑するべきか、アレンが侍らせている女について聞くべきか、迷っていた。


「あなたはどちら様ですか? 」


 エレナがアレンに対して問う。


「失礼。君は初めましてだね。僕はアレン・パウエル。次期剣聖さ」


「私は剣聖協議委員会のリリアン・ルイスです。彼を次代の剣聖と見込み声をかけました」


 女性はアレンにもたれかかったまま自己紹介をする。オーランド的にはもう少し礼儀があってもいいのでは? 思っていた。どうやらアレンに女を見る目はないと思い勝ち誇った気になるオーランド。


「……つまり、パウエルさんはハワードさんより強いとおっしゃるおつもりですか? 」


「ええ、そうです」


 リリアンは自分のことのように胸を張って答える。


「だとすると妙ですね。剣聖に挑む資格は誰にでもあります。が、同時に剣聖は決闘を断れます。ただ、委員会が決めた次代剣聖候補との決闘は断れません。つまり正規の手段をとれば容易に決闘ができるはずなのに、果し状を送くりつけてきたことがおかしいんですよね。つまり、パウエルさんを次代剣聖と担いでいるのはあなただけなのでは? 」


 エレナは訝しげな目でリリアンを見る。


「ふん。委員会の連中はアレンの強さがわからないのよ」


「つまり独断であることに変わり無いと」


「だから何。あなたも言っていたでしょ? 剣聖に挑む権利は誰にでもあるって」


「ええ。そして剣聖には断る権利があります」


「ふん。ただ負けるのが怖かっただけでしょ? 今代の剣聖は随分と臆病者なのね」


「やめろ」


 オーランドを煽るリリアンの前に手を出して止めるよう促す。


「オーランドはそんなやつじゃ無いさ」


「僕は君のことをライバルだと思っている。だからこそ名前を出さずに果し状を出したんだ。幼馴染のアレンではなく、ただの剣士として勝負する為にね」


 オーランドが一歩前に出る。


「意図を汲めず、すまなかった。俺にとってもアレンはライバルだ。アレンさえ良ければ決闘をしよう」


「……ああ。今すぐやろう」


 アレンはどこか喜んでいるようにオーランドには見えた。


 事務所の外に出ると大勢の女性が事務所を囲むように並んでいた。オーランドは困惑した。事務所の周りを人が囲むことは過去何度かあったが女性だけというのは一度もなかった。


「これは……どういう状況だ」


「ああ。僕のファンだ。気にしないでくれ」


 オーランドは衝撃を受けた。さすが自分のライバルだと実感した。まさかこれほどの女性ファンをつけているとは思いもしなかった。彼は今もモテモテらしい。


 女性達に囲まれながら剣を抜く二人。アレンは剣に炎を纏わせる。オーランドはただ堂々としている。


「いつでもいいぞ」


「……では遠慮なく! 」


 アレンがオーランドに対して向かっていく。オーランドはただ堂々としている。オーランドは考えていた。ここでどうやったらカッコよく勝てるのか。どうやったらアレンの女性ファンを自分のファンへとすることができるのか。先程はアレンを見る目がないと下に見ても羨ましいものは羨ましいのである。


 右、左、上、斜め右下、斜め左上と縦横無尽に切りつけてくる剣を一歩も動かずに受け止めながら、どう勝つか考え続ける。下手に反撃して周りの女性達を巻き込むわけにはいかない。かと言って速い一撃で終わらせると何が起こったかわからずファンがつかない。


 うんうんと悩みながらアレンの猛攻を耐えるオーランド。


 息切れを起こし始めたアレンは距離を置く。


「やるね。僕も強くなったつもりだったんだけどな」


 ふぅー、と息を吐き呼吸を整えるアレン。目を瞑り集中し始める。隙だらけではあったがオーランドは攻撃するつもりはなかった。しかし、纏う炎が強くなっていくにつれて危機感を抱いた。自身に対してではなく、周りの女性達の危険度が高まっているのを感じたオーランドは瞬時にこの決闘を終わらせることにした。


 アレンに瞬時に近づき、炎を纏っている剣を足で地面に叩きつける。そして、剣をアレンの喉元に突きつける。


「悪いが俺の勝ちだ」


 静まり返った周囲。


「……卑怯よ! 」


「そうよ! そうよ! 」


 周りの女性達はオーランドを責め始めた。彼女達には大技を放とうとしたアレンを警戒してのことと分かっていたが、真正面から受けてこそが正々堂々と思っている彼女達はオーランドが卑怯な人間に見えた。


「やめろ! 」


 アレンの一言で場は静まり返った。


「すまない。僕の完敗だ。だが次こそは勝つ」


「ああ。次の挑戦を待っている」


 オーランドとアレンは固い握手を交わした。しかし、オーランドもまた負けを実感していた。


 (俺が勝っても誰一人ファンにならなかった……。やはり、まだまだアレンには敵わない)

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