一頁目 幻像の再生
リベル・カラムス
これより、クルダスの手記、一
◇◇◇
「――やはり、貴様らに同行して正解だった。当時はあんなにもてこずったミノタウロスの標本が、これほどやすやすと手に入るとは」
荒野に座り込み、
「あったぞ、核だ」
目尻のしわを寄せるクルダス公。
なんと、牛頭の魔物ミノタウロスの
「お、おいクルダス、その……気持ち悪くないのか?」
金色の髪をガシガシとかきながら、クルダス公に声をかける白銀の鎧の青年。勇者レナトスだ。勇者一行は一度、城で目にしたことがある。
「レナトスといったな。貴様、釣りをしたことは?」
「ああ、もちろんあるが……それが?」
「貴様は釣った魚を食す前に、その
クルダス公の返答に、レナトスはその品の良い顔をひきつらせながら馬車へと戻っていった。
ミノタウロスの核を取り出し、目を細める彼の顔は、どこか狂気を
◆
「ねぇ、おっさん。あんた、ひたすら魔物の核ばっか集めてるけど、何に使うわけ?」
一角兎アルミラージを解体するクルダス公が、背中の声に
赤髪おさげに黒いローブ。たしかこのじゃじゃ馬、ルーブルとかいう魔法使いだ。
「なにを珍しがることがある。お前たち魔法使いとて、トカゲの尾やマンドラゴラの根を鍋に放り込み、
ルーブルの顔を見ることもなく、クルダス公は鬱陶しそうに答えた。
すると彼女は「いつの時代よ」と、顔をしかめながら馬車へと戻って行った。
「……時代、か」
クルダス公は、少し寂しそうにつぶやいた。
◆
「しまった、毒だ」
魔物の肝を握るクルダス公の右手が、青黒く腫れ上がっている。針でつけば破裂しそうなほどだ。
「クルダス様、動かないでください」
優しく落ち着いた声。白いベールから長い青髪を覗かせる若い女が、彼の腕に掌をかざした。
治癒の加護。たしか僧侶のセレスタという名だったか。「もう大丈夫です」と、はにかんで笑う彼女に、クルダス公は礼を言い、再び肝を取り出す作業へと戻った。
しかし――
「しまった、毒だ」
無表情のまま、淡々と述べるクルダス公。
右手が治ったのもつかの間、今度は左手が腫れてしまっている。
「何をぼさっとしている。早く、先ほどのように治してくれ」
セレスタは、苦笑いを浮かべている。
◆
焚き火だけが辺りをほんのり照らす中、クルダス公が鍋から器に、ちまちまとスープをすくっている。すると、背後から低く太い声が聞こえた。
「クルダス殿! 俺が腕によりをかけて作ったスープだ、じゃんじゃん食ってくれ! なにより、食わないと体力がもたないぞ?」
銀髪の男が、クルダス公の隣にドカッと座った。軽装で
「……貴様こそ元気すぎる、もう少し手加減できんのか。私が標本にするつもりだった魔物を、ことごとく粉砕しおってからに」
しかし、クルダス公の抗議に「そうでもないさ」と、なぜか照れくさそうに笑う彼。
「……貴様、脳みそにも拳が詰まっているのではあるまいな」
武闘家のラウム。どうやら豪快なのは図体だけではないらしい。
一行の中では、クルダス公のもっとも苦手とする人物のようである。
「そもそも、私はあまり肉は口にせんのだよ」
「あれ、そうなのか? 丹精込めてつくったんだけどなぁ。酒のつまみにもピッタリなんだぜ?」
しかし、文句を垂れながらもひスープにひと口、手をつけた途端、彼の
「……まぁ、そこまで言うなら食ってやらんこともないが」
見事に平らげたクルダス公は、今度は自らの手で鍋へと手を伸ばした。どうやら塩漬け肉のスープだけはお気に召したようだ。
◆
深い森の中、現れた影。フクロウのような頭に熊のような巨躯を持つ魔物、アウルベアだ。
新たな核を手に入れる絶好の機会と踏んだのか、クルダス公が一歩踏み出す。しかし、アウルベアはその姿を見るや否や、突進を始めた。
「下がれ!」
レナトスがその前に立ちはだかり、ただ一人で突進をその剣で受け止める。その刹那、剣に宿る光がほとばしり、轟音と共にアウルベアは斬り伏せられた。
「傷を見せてください!」
セレスタが駆け寄る。レナトスは片膝をつき、荒い息をしていた。肩口には深い爪痕がある。
「出すぎた真似をするからだ」
無情なクルダス公の言葉に、パーティの空気が張り詰める。それでも、彼がアウルベアから核を取り出すのを見て、レナトスは笑って言った。
「核が無事で、良かったよ」
レナトスを振り返るクルダス公。その瞳は、わずかだが不意をつかれたように見開かれていた。
しかし、すぐに視線を目を伏せると、何も言わずに作業に戻ってしまった。
◆
宿場の一部屋にベッドが三つ。レナトス、ラウム、そしてクルダス公が
しかし、壁の向こうがなにやら騒がしい。
どうやら、隣部屋でルーブルとセレスタが口論をしているようだ。
すると、クレスタ公が壁に聞き耳を立て始めた。
「前衛の負傷が多いです、後方支援のあなたは何をやっているんですか!」
「あたしにだって限界があるわよ、そもそもそれを治すのがあんたの仕事でしょ!」
なんとも不毛な水掛け論である。
「止めに行かなくていいのかね?」
クルダス公が、レナトスとラウムに尋ねる。
しかし、二人は静かに首を横に降るばかりだ。
「なるほど。女の喧嘩は犬も食わぬというワケか。ま、私は大好物だがね」
クルダス公は、野次馬精神が旺盛のようだ。
◆
「一体、その大荷物には何が入っているんだい?」
ガタガタと揺れる馬車の中、レナトスがクルダス公に尋ねる。
よくぞ聞いてくれたとばかりに、クルダス公は背中の荷を下ろし、標本の瓶を並べて見せた。
「これは、ヘルスコーピオンの毒腺だ」
瓶の中でぷかぷかと浮かび、かすかに泡を立てている。
「これは、リザードマンの心臓」
ピクピクと、まだわずかに痙攣を残している。
「そしてこれが、ハーピィの卵巣――」
それを取り出したところで、レナトスがスッとクルダス公の手を押さえた。
見ればセレスタは今にも吐きそうに口を覆い、ルーブルは杖でわざと視界を遮っている。
ラウムも「やめとけ」と言わんばかりに、無言で首を振っている。
「なるほど。皆、ゴブリンの
違います、クルダス公。
◆
「この先の村で、魔物が出現したらしい」
馬車の中、レナトスが静かに告げる。
「どんな魔物なの?」
「王国軍は向かっているのですか?」
ルーブルとセレスタが、神妙な面持ちで尋ねる。
「それが……直接、攻め入られたというわけではないんだ」
「どういうことだ?」
レナトスの言葉に首をかしげるラウム。
「証言によると……村が寝静まった頃に、人間の体内に卵を産み付けにくる魔物らしい。そしてやがて幼体まで育った魔物は、宿主の体内を食い破って……」
そこまで語ると、レナトスは口をつぐんだ。
皆もただ、黙ったままうつむくばかりだった。
そう、ただひとりを覗いて。
「そんな魔物、聞いたことも見たこともない……きっと新種だ。そうだな、その
クルダス公の病気は、筋金入りのようである。
◇◇◇
一
手記は、二
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魔王とは勇者である -とある錬金術師の手記より- 神成ヨハネ @Johannes_shinjo
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