第4話 庭のダンジョンと魔剣メガロ
「庭にダンジョンがある」
家に帰ってきて言われた通り、庭に回った豪は驚きに目を見開いた。
二柱の門の間にはうごめく赤い闇があり、上部にはチュートリアル、火という文字がある。
それは紛れもなくダンジョンの入り口であった。
「火は火属性だよな。チュートリアルダンジョン? 凄いものをプレゼントしてくれたな」
ふむ、と豪がひとしきり考え込んでいると「あら、どうしたの豪」と声をかける中年女性の姿があった。
年の割に少し可愛らしさが残る顔つきの女性はカジュアルな仕事服で手には買い物袋を提げていた。
「母さん」
「柿の木がどうかした?」
「柿の木って母さんにはこのダンジョンゲートが見えないのか?」
「ダンジョン?変な事言うわね。暇だからって漫画やゲームのやりすぎじゃない?母さんは先に家に入ってるわよ」
豪の母は首をかしげつつも呆れて玄関の方へ向かっていった。
豪はそういえば、ここには柿の木が生えていたと思い出す。
「俺以外には見えないのかもしれないな。あの神が作り出したものだ。そういう効果があっても不思議ではない」
一人豪は納得する。
「ミノスの話を聞く限り、ダンジョンを攻略させたがっていたよな。そしておそらくこれは俺専用のダンジョン」
豪はキラキラと目を輝かせた。
パンパンと金属バットを片手に当てて、獰猛な笑みを浮かべる。
「行くっきゃねえだろ」
豪は赤い闇の中へと身を投じた。ヌルッとした感触と一瞬の浮遊感の後に、景色が闇から明るい光源へと変わる。
豪が目を開くとそこはたった数メートルしかない狭い赤茶色の洞窟だった。
ポインポインと赤色のスライムが数匹、地面に跳ねている。
洞窟内は外のようにもジリジリと熱い。
「最初はスライムっていうのはお決まりらしいな。レッドスライムか」
スライムの上部にレッドスライムという表記があるのを豪は読み上げる。
読み終えた刹那、その表記は消えた。
「ご親切に名前を教えてくれたってわけか!スライムはこちらを襲ってこないようだな。それならまずは状況把握からか」
ぐるっと辺りを見渡した豪は、洞窟の壁に像が描かれているのを発見する。
牛の角をはやした青年の像で、像の下にはダンジョン神ミノスと名が彫られていた。
「ダンジョン神の壁画か。なるほどな」
こうして偶像にすれば分かりやすくて信仰心も高まる、他のダンジョンにも像はあるのかもしれない、と豪は思った。
「それじゃあ、まずは色々と試していくか!お試しチェックの時間だぜ!」
リュックからスマホを取り出した豪はまず、電波を確認した。
「意外だな。電波は通っているのか。それじゃあ、次は外に出られるのか」
後ろを振り返った豪は、壁スレスレまで闇が広がっている空間をじっと見た。
「ここを通れば、帰れるんだよな?」
闇へと体を投じると、一瞬の浮遊感があって豪は庭へと戻ってきていた。
「よし、大丈夫そうだな」
もう一度戻って、壁の壁面を見ると変わらずダンジョン神像がある。
「戻ってこれたな。それじゃあ次は魔力回復だ。ステータスオープン」
ステータス
名前:世界豪 レベル2
世界ランク:5
職業:
属性:水、火、風、土
生命力:20
魔力:30
筋力:23
耐久:22
器用:23
速度:20
スキル:魔力操作 水の攻撃
「レベルアップした時には魔力は30と表示されていたから、多分全回復したんだろう。自然回復するかは空打ちして試す必要がある。水の攻撃!」
すぐ近くの地面に向かって魔法を撃つ。パンッと乾いた音が鳴ってカードの魔力は28/30となった。
「時間経過で回復するなら、時間を測らないとっておわっ」
レッドスライムが突進してきて豪の右足のすねにぶつかり、豪はあやうく、スマホを落としそうになる。
「魔法を放ったからマークされたか?水の攻撃!」
パンッと豪から放たれた水弾がレッドスライムの体を射抜く。
物音を聞いてか、レッドスライムたちが続々と豪の元へ近づいてくる。
豪はスマホをポケットにしまい、暗黒微笑を浮かべた。
「次は色が違ってもバットが効くか試さないとな。好戦的なお前らにバットをくれてやるよ!」
パアン!パアン!パアン!パアン!パアン!パアン!パアン!パアン!パアン!
豪が振るったバットはレッドスライムを一撃でチリへと変えていく。
計10匹のレッドスライムを屠った時、変化が起きた。
赤いモヤが渦巻いて、赤くデカいスライムとなったのだ。
赤くデカいスライムの上部にフィールドボス:ファイアクリムゾンスライムという表示が出て、数秒の後にその表記は消える。
「これがこの層のボスということか。名前は呼びにくいから赤デカスライムな!」
その赤デカスライムは犬ほどの大きさがあった。赤デカスライムはメラメラと火を纏っていた。
「金属バットは燃えそうだから使えないな、そうなると」
パアンと豪は指から水弾を放つ。赤デカスライムの体の一部が弾け飛ぶが、すぐに元のフォルムに戻る。
「これは回復しているのか、ダメージ自体は与えられているのか分からんな。うお、アチチ」
赤デカスライムが豪の元へ向かってきて、豪はステップを踏んで躱す。
「だが、動きは緩慢だな。火を噴く口もないみたいだし、タックルだけが攻撃手段なのか?」
攻撃自体はそれほど速くないので豪は動きを見切れていた。
「水の攻撃は水弾以外出せないか?空から大量の水が降ってきて火を消せるとか」
云々唸りながら水の攻撃の事を考え、時折赤デカスライムの突進を躱し続けているが頭に違うイメージは浮かんでこない。
「無理そうだな?」
最初のイメージで固定されているのか、他の人も共通の型なのか、豪の想像力不足なのかは分からなかった。
放てるのはやはり水弾だけ。
「それならスライムの弱点を探るしかないか」
じっとその巨体を見る。すると、核のような球があるのが透けて見えた。
「あれ明らかに弱点っぽくね?あれを撃ち抜けば!」
片手で銃のポーズを取り、豪は水攻撃の水弾を放った。
水弾は正確に核を貫き、サラサラとチリになって赤デカスライムは紅の魔石を残して消滅する。
レベルが上がりました、というウィンドウ表示と共に、ボンっと大きな宝箱が登場した。
「おおートレジャーボックスじゃないか!ダンジョンっぽいっ!」
ステータス画面を一度閉じ、キョロキョロと周りにモンスターが出てこないのを確認してから、豪は宝箱を開けた。
「お宝は何だ!?」
宝箱の中には剣と青いポーションが入っていた。
豪がそのポーションに触れると、キュアポーションⅠ、魔力を10%回復する、とウィンドウが表示される。
「キュアポーションⅠ、初めて見るやつだな。剣の方は……1メートルぐらいありそうだな」
大ぶりな剣を豪が持つと、ウィンドウが表示された。
オリュンポスの魔剣
鍛冶神ヘパイストスより生み出された伝説級の魔剣。
使い手の魔力次第であらゆる力を宿す。
ヘパイストス『魔剣とは何か。その答えを見つけるのはお前なのだ』
「ギリシャ神話のヘパイストス!?本物の業物!?」
魔剣はずっしりと重く、鍔は凝ったデザインとなっており、刀身を抜くとその刃は鋭く研ぎ澄まされて何かの文字が刻まれている。
「知らない文字なのに意味が分かるな。魔法を宿して輝き、成長する、か」
片手では重く、両手で豪は魔剣を振ってみる。
風切り音が鳴り、魔剣は空を切った。
「これは良く切れそうだ。魔剣とは何か、その答えを見つけるのはお前なのだ、だったか。魔剣のイメージ……うーむ」
豪は水魔法、いわゆるオーラ的なものを剣にまとわせるイメージをする。すると、体から何かが抜けていく感じがして謎の文字が青く光を帯び始める。そして、刀身全体が青いオーラを纏った。
「おおっ!水の剣になったぞ!」
ぶんっと振ると、心なしかさきほどよりも威力が増しているように豪には感じられた。
「いい感じだな。そうだ、せっかくだしこの剣に名前をつけよう!」
何がいいかな、と豪は上機嫌で考える。
「魔剣、マジックソード、オリュンポス、ヘパイストス、魔力、ダンジョン、冒険者、冒険者ライフ、輝かしい、素晴らしい、とんでも、でっかい……」
ブツブツと呟き、豪はその場をクルクル回る。
そしてパッと目を輝かせた。
「名はメガロにしよう!メガロは巨大でデッケーって意味だ!俺が愛用してる生成AIと同じ名でもある。夢はデッカく素晴らしく!これからのダンジョン冒険がメガロで素晴らしいものとなるよう願って、お前の真名はメガロだ!」
その瞬間、パッとウィンドウが表示される。
オリュンポスの魔剣に真名が付けられました。
メガロはあなた専用の武器となりました。
「俺専用の武器!今日からよろしくな、メガロ!」
豪はブンブンと振り回してメガロと戯れる。
もうモンスターは出てこないようで、豪は色々試しながらメガロと鍛錬を行った。最初は剣に振り回されていたが、次第に重心の取り方が分かってきて切れ味のある振りを出せるようになってきた頃、パッと突然ステータス画面が表示される。
『魔剣士の職業(ジョブ)に就きました。スキル:魔剣術を習得しました』
「魔剣士!?あの空欄だった職が埋まった?ステータスオープン!」
豪は剣の手を休め、現れたウィンドウを凝視する。
ステータス
名前:世界豪 レベル3
世界ランク:1
職業:魔剣士
属性:水、火、風、土
生命力:30
魔力:40
筋力:29
耐久:27
器用:27
速度:25
スキル:魔力操作 水の攻撃 魔剣術
装備:魔剣メガロ
「世界ランク1位!?」
そこには確かに、世界ランク1、職業:魔剣士、スキル:魔剣術、装備:魔剣メガロが追加されていた。
ダンジョン・クエスト伝説!〜現代に現れたダンジョンはギリシャ神話がモチーフだった〜 生きよー @ikiyo
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