第2話 ステータスと魔法

 道中ゴーゴーマップで位置を確認しながら進み、公園近くの大型ショッピングモール、にゃおんモールの駐輪場に自転車を止めると豪はバットを手に現地へと向かった。

 

「いるな」


 車の往来も止んでいる中、ポインと跳ねながら近づいてくる影に豪は足を止める。道路上に目を凝らしてみれば、拳大ほどの大きさの青いスライムがいた。


「ツブヤイターの話じゃ、タックルされても痛みはそんなないらしい。最弱のモンスターであり、始まりのモンスターって説は濃厚かもな」


 ポイン、ポイン、ポイン。


「俺をファンタジーな世界に連れて行ってくれっ」


 豪はバットを力強く握り、スライムめがけて駆け寄って振り下ろす。

 パアンッとスライムが弾けて消える。後には小さな石が落ち、パッとウィンドウが表示された。ウィンドウの上部にはステータスと書かれている。


「本当だったんだ。うぉ、俺の名前が書いてある。これがステータスね」


ステータス


名前:世界豪 レベル1

世界ランク:15

職業:

属性:水、火、風、土

生命力:10

魔力:20

筋力:18

耐久:17

器用:18

速度:15

スキル:魔力操作


「世界ランクはよく分からんが高そうな順位だな。色んな属性と魔力操作があるってことは魔法が使えるってことだよな!それに職業ジョブがあるということはこれから習得できるという意味で合ってるよな!」


 豪はキラキラと目を輝かせる。それはどうしようもない底辺ニート生活を送ってきた中で見せた、ワクワクを隠し切れない表情であった。


「それでこれが石か。宝石みたいだな。魔石ってやつか?」


 拾い上げた小指の爪ほどの小さな青い石を豪はじっと見やり、ポケットにしまう。


「なんにしても魔力があるってことは今使えるんじゃないか?魔法をよ!」


 豪はバットを地面に置くと右手を前へ突き出す。


「いでよ、クリエイトウォーター!」


 そう唱えると、豪は手のひらに何か温かいものが集まる気配を感じて手のひらからちょろちょろと水が湧き出した。


「うおぉ!しょぼいけど本当に出た!」


 それは数秒でおさまり、ステータスウィンドウへと視線を移すと魔力が19/ 20となっていた。


「魔力を1使ったのか。はははっ、こりゃあスゲエ。スキルを覚えたらとんでも威力の魔法も使えるようになるんじゃないか?俺の日常に光が差してる!」


 クハハと豪は楽し気に笑う。


「こうしちゃいられない、早くモンスターを倒せば特殊スキルやアイテム、職業(ジョブ)が得られるってのはファンタジーにはあるある。一番最初じゃないからどうなるかは分からんが、とにかく倒すんだ」


 豪は急ぎ足で道路を走って角を曲がる。しかし、そこには自衛隊による規制線が張られていた。


「クソッ。一足遅かったか」


 迷彩服に銃を持った隊員に、戦闘車両、パトカー、消防車までいる。

 銃声は聞こえてこない。


 ―どうせ避難しろと言われるだろうが、何か少しでも多く情報が得られれば儲けもの。


 豪はダメもとで彼らに近づいていく。


―しかし、なんて言おう。ステータスの事を話して気を引くか?それとも魔石を見せるか?


 何をどうするか迷ってしまい、ハタと足取りが止まる豪に対し、タタタッと駆け寄ってくる一人の隊員の姿があった。


「そこの金属バットを持った方!スライムの排除をお手伝い願えますか?」

 

「え?手伝い?」


 まさかの言葉に面食らってしまう。


―Jアラートで強制避難じゃないのか?そんな状況で来る俺もアレだけど。


 隊員は表示したままになっている豪のステータスウィンドウに視線を移し、そして再び豪を見た。


「もう既にスライムを倒されているようですし、加勢をお願いします。こちらに来てください」


「あ、ああ」


 案内されるままに奥に進むと、公園前の路上に大量のスライムが溢れていてそれを自衛隊員、警察、消防隊、一般人がごっちゃになって叩き潰していた。さすまた、金属バット、傘、木刀、警棒など様々な道具で一撃で潰している。

 しかしスライムの増殖は速い。


―一般人も思ってたより結構いるな。


 ポインと近寄ってきたスライムを、案内した自衛隊員は足で踏みつぶした。


「弱い化け物ですがいかんせん数が多くて。やっちゃってください」


 自衛隊の人がピッと首をはねるポーズを取る。

 

―おいおい、民間人にそんなこと言って大丈夫?


 疑念が生まれるものの、やれるというなら千載一遇のチャンス。


「任せてくれ。ぶっ飛ばしてやりますよ」


 豪は金属バットを握りしめてスライムへと向かう。

 自衛隊員は「よろしくお願いします」と持ち場へと戻っていった。


「ふんっ。おりゃあ!2、3、4!」


 パアンパアンパアンッ。ひたすら叩き潰す。

 豪は数を数えながら、無我夢中で倒していた。

 しかし、途中でステータス表示邪魔だなと思うとウィンドウが姿を消したことに驚くのだった。


***


「21、22、23」


 地面スレスレをフルスイングして豪は三匹のスライムを屠る。


「まだまだ行くぜ」


 パアンッ。パアンッ。パアンッ。


「24、25、26」


 続けざまに振り下ろして再び三匹を屠る。


 その調子で豪は順調にスライムを狩り続けていた。

 と、30匹目になった変化が起こった。石だけでなく、赤い小瓶がドロップしたのだった。


「おっ!これ、もしかしなくてもポーションってやつじゃないか?」


 豪はそれを拾い上げた。

 しかし、調べる間もなく次のスライムがゴツンと足に当たる。


「ええい、クソッ。ポーションは後にして今はスライム退治だ」


 パアンパアンパアンッ。


 ひたすらスライムを狩っていた時、50匹になった瞬間、豪は身体に電気が流れるような何かの変化を感じた。そして何やら球体がドロップする。


「何だ!?今、確かに何か感じた!それにこれはもしかしなくてもスキルオーブ!?」


 豪が手に取ったそれは白く丸い球体で水の攻撃と中央に書かれていた。


 スライムを足蹴にしながらしばらくそれを眺めていると、パアッと突然光が舞って豪はドクンと何かがオーブから体中に流れてくるのを感じた。

 その光は数十秒でおさまり、体も何ともなくなったと豪が思った瞬間、サラサラとオーブはチリになって消える。


 豪はハッとした。


「もしかしてスキルを習得したのか!?ステータスってどうやってまた見ればいいんだ?

こういう時は……ステータスオープンだ!」


そう唱えると、パッと再び豪の前にステータス画面が出る。足にスライムがまとわりつかれながらも確認すると、スキル欄に水の攻撃と追加されていた。


「うおおお!レベルが2に、ワールドランクが8位にあがって、スキル『水の攻撃』が増えてる!しかもスキルの使い方がなんとなく、頭に浮かんでくるぞ」


 スライムに向かって豪は「水の攻撃」と唱えて指先を向ける。刹那、指先から水の弾丸が発射されてスライムを打ち抜いた。


 パアンと乾いた音が鳴って魔石が転がる。


「こりゃ凄いや。でも魔力を2も消費してる、な!?」


 突然の出来事に豪はステータス画面を消して、金属バットを構える。


 豪の目の前には金髪紅眼の青年が、宙に浮いた状態で現れていた。青年の頭からは二本の牛角が生え、白と金のローブを纏っており、キラキラと周囲にはエフェクトが舞っている。


 ブーツからは風が舞って彼を宙に留め、彼の手にある指輪からエフェクトは放たれているのであった。


「浮いてる、浮いてるよなっ!お前は誰だ!?」


 驚く豪に青年は両手を広げ、ニコリとほほ笑んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る