ダンジョン・クエスト伝説!〜現代に現れたダンジョンはギリシャ神話がモチーフだった〜
生きよー
第1話 宝くじとファンタジー
2030年8月21日。
自宅の居間でテレビをながら見しながら、心中ではガンガンに宝くじの事を考えている男がいた。男の名は世界豪(25)。
ショートよりややロングの髪に
顔のパーツは良いのに、髪がぼさぼさで、考えていることも含めてどことなく残念感が漂う、そんな男が豪であった。
『続いてのニュースです。本日午後3時ごろ、千葉県海浜幕張にある公園で突如謎の構造物が出現しました。構造物は上部に水という表記があり、高さは数メートルに及び、アーチ状の扉のような形状を有していますが内部は青く揺らいだ謎の現象に覆われ、中の様子は確認できていません。構造物の出現時に複数の人が内部に取り込まれたとの通報もあり、警察や消防が周辺を封鎖して捜査を進めています。
現時点では取り込まれた人々の安否は不明で、情報が入り次第お伝えします。
同様の現象は海外で複数確認されており、「内部に未知の生命体がいた」という報告もあり危険性が高いこと等を理由に、
「海浜幕張は結構近いな。だが、しかーし。俺の心にあるのはサマージャンボ!!頼む!!5億を俺に恵んでくれっ」
豪はジャンボ宝くじの抽選結果がいつ発表されるだろうかとスマホをこまめにチェックし続けており、先ほど結果が地方新聞記事よりもたらされたところだった。
海浜幕張、と言う近場のニュースにそのスマホの手を止めてテレビを見た豪であったが、それが殺人とかでもなく自身の身に関係のなさそうな出来事なら、もう眼中にはなかった。あるのはただ、宝くじへの欲望。億万長者の夢であった。
頼む、頼むと言いながら豪はスマホを机に置くと、机上のすぐそばにある宝くじを手に取り、封をピリピリと破った。そして10枚の宝くじを手にすると、スマホの当選結果画面と照合する。
「船橋の億当たりが出てる売り場で買ってきたんだ。頼む!!結果は……はずれ、はずれ、はずれ、300円、はずれ、はずれ、はずれ、はずれ、はずれ、ウソだろ……」
ハラりと豪の手から宝くじ券がこぼれ落ちる。
「は、ずれ、た。はずれた、はずれた、はずれた」
豪は壊れた機械のようにその言葉を繰り返す。スマホの当選結果画面は、豪の持つサマージャンボ宝くじ券が紙切れに変わったことを無慈悲に示していた。
(1等5億円は違う人の手に渡った……)
「ほげえ!!くぁwせrdftgyふじこlp」
明日からまた底辺無職ニート親に寄生中の日常が待っている。それは豪にとって絶望以外の何物でもなかった。
金さえあれば変えられる。
そう思って買った宝くじ。
「くそっ。俺はまた惨めなままかよっ!株で大損したばかりだってのに!」
豪は半月前に楽に稼ごうと、株式投資でお金を10倍に増やそうとトレードしたところ、仕手株というものに捕まり100万を10万にしてしまったばかりであった。
金はそう簡単には稼げない。ただ、奪われるだけ。
その事実が豪の胸を刺した。
「ううう。底辺無職ニートに加えて+金無し。
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛世界が憎いっ!」
バンっと机に外れくじ券を叩きつける、ジンジンと痺れる手にさらに絶望は深くなる。
「俺には不幸が取り憑いている!」
豪はいわゆる就活失敗組である。
大学時代に就活に失敗し、一社も内定を貰えずに卒業。
バイトの面接にも落ちまくり、苦渋の末に受かったスーパーのバイトは……。
メニエール病というめまいと耳鳴りが酷い病で欠勤せざるを得なかったら、クビになった。働き始めてわずか1カ月の試用期間内でのクビであった。
「病気さえしなければっ!俺はまだアルバイターだったのに!」
めまいは歩行すら困難にし、常時視界がグワングワン揺れて、青やら赤やら緑やら黄色やらと変な色に時折世界が染まった。「ブオン…ブオン…」と波打つ耳鳴りの合唱は精神を削った。
「それでも俺は耐えたのに!この仕打ち!」
日々病の苦痛に耐え忍び、薬を飲み続けて約2年。やっと3カ月前に病が治って、聴力も戻った頃には25歳、社会人経験なし、無職底辺ニートが誕生していた。そして今や豪には金すらなかった。
「世界が憎いっ!俺は俺が社会の底辺だという事実が許せない。宝くじも許せないっ」
バンっと手が痛むのも構わず宝くじを机に叩きつけると、飲みかけのコップが倒れ、バシャっと麦茶が零れた。
豪はハッとしてティッシュでそれを拭くが、その手は震えている。拭き終えて、クソッと小さく口にし、床に身を投げ出してふて寝するのであった。
***
ウーーウーー。
「なんだ!? 北朝鮮のミサイル!?」
多少は聞き覚えのある不愉快なJアラート音に豪はガバリと身を起こす。そして、そういえばテレビをつけっばなしにしたままだったという豪の思いは、白黒赤の危険色テロップの文字を読んで吹き飛んだ。
国民保護に関する情報
直ちに避難。直ちに避難。
直ちに建物の中、または地下に避難してください。
千葉県海浜幕張にてゲリラ攻撃発生。
直ちに避難してください。
対象地域:千葉県
「ゲリラ攻撃!?海浜幕張ってさっきのニュースが関係してるのか?ここは安全だよな?」
豪がいるのは船橋市前原。海浜幕張にはチャリで40分程度かかる距離にいた。
豪はすぐさまスマホで情報を調べる。
「こういう時はツブヤイターだよな。ゲリラってことはテロ攻撃か?」
現場、即ち海浜幕張周辺にいる人が何か呟いてるかもと、豪はSNSアプリ、ツブヤイターを開く。
そして、トレンドにあがっているものを見漁って豪は目を見開いた。
「スライムにダンジョンって。ゲームじゃないか!」
『この丸く青いフォルム、誰がどう見てもスライムでしょ。異論は認める』
『スライム増殖中。道はスライムまみれ。扉からいっぱい出てくる』
『日本はファンタジーな国になった。海浜幕張に現れたのはダンジョンゲートに違いない#スライム#海浜幕張』
『スライムを傘でぶっ叩いたら消えた。そして不思議石と瓶が落ちてた。これってドロップアイテム?#海浜幕張』
『ニューヨークで未知の生命体がいたってニュースあったけど、外には出てなかったよね?え、なんで日本ではスライム溢れてんの?ダンジョンブレイク、スタンピートってやつですか。小説の知識初めて役に立ってるかも#海浜幕張#ゲリラ攻撃』
『これから現場に行ってスライムを倒してくる。それでステータスを得るんだ。これファンタジーの基本です。本当にステータスが表示されるらしいから(迫真)#海浜幕張』
数々アップされている写真や動画には、まん丸なフォルムの青くプルプルそうな見た目で動く生き物が撮られていて、豪にもそれはスライムであると思われた。そして公園に突如現れた門もしくは扉のような物体は、ダンジョンゲートだとツブヤイターでは言われていた。
「現実、なんだよな?」
わちゃわちゃ盛り上がっているツブヤイターを見ている内に、やがて豪の口からへへッと笑いが零れる。豪もニートとしてファンタジー小説を嗜んでいた。特に底辺からの成り上がり物を好んで読んでいる身としては……。
「ファンタジーな世界、大好物だ。俺のくそったれな日常がちょっとでも変わるんなら海浜幕張に行くに決まってんだろ。待ってろ!俺のステータス!」
へへへっと笑う豪は、宝くじが外れて世界を憎んでいた事などすっかり忘れており、ジャージに野球バットとリュックを持って家を飛び出したのだった。
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