第7話

 いつもの場所に座って、窓から見える夜空を見上げていた。

 窓枠の四角に切り取られた空は暗く、星もほとんど見えてはいない。主が不在の部屋は電気が落とされて暗い。外からの街灯だけが青白く室内を照らしていた。

 見上げると頭上にカレンダーが静かにぶら下がっている。

 死んでから時間の感覚が鈍っていたらしい。思っていたよりもずっと時間の進みが遅いことに気付く。正直、時間なんてどうでもいいと思っていたことも悪かったのだろう。実際、もう時間は不要のものとなっていた。

 幸が佳代と出かけてまだ数時間も経っていない。帰ってくるのはしばらく先になるだろう。

 退屈だった。ずっと幸のそばを離れたことが無かったから、何をしていいのか分からなくなる。視線を巡らすと、床にテレビ情報誌が落ちていた。ずいぶん前に買ったやつだ。

 退屈しのぎにそれでも読もうと、手を伸ばすが、動かせない。触れることはできるのだが、動かすことができない。渾身の力をこめるがピクリともしない。

 紙一枚掴むこともできずにしばらく四苦八苦していたが、どうにもならずに投げ出した。

 触れることができるのに、動かせないというのはもどかしい。それに触れていても何の感触も感じないから、楽しみも無い。

 もう幸たちの住む世界には何の影響を与えることが出来ないことを実感していた。与えられるものは視覚だけで、それ以外はもう死んでしまっている。

 目の前に手の平をかざしてみる。高校生の頃に、バイクでこけた時に出来た小さな傷がそのまま残っている。

 手に残っている幸の温もりを思い出す。死んでしまっている感覚の中で、彼女に触れている間だけに感じられる唯一の感覚だった。もしかしたらこれは例外的なことなのかもしれない。神様のほんの少しの情けが、手を通して幸の温もりを伝えてくれているのではないのだろうか。

 手を握りしめた。残された幸の温もりが手の平からこぼれてしまわないように、強く、強く握り込んだ。


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