優しい狂気 解答編


「で、京子ちゃん。ことの真相はわかったかしら」

「そうね。ポイントになるのは、やっぱり事故の瞬間のことね。二ノ宮さんは横山さんを車に突き飛ばそうとして、もみ合いになってその際に怪我をしたって言ってたわよね。だけどそれっておかしいわよね」

「おかしい?」

「車が来るのを確認して、もみ合いになって彼女は怪我をした。肘を怪我するってことは一度彼女は横山さんとのもみ合いに負けて転んだってことになるわ。体勢を立て直す頃には車は通り過ぎてしまってるんじゃないかしら」

「――でも相打ちって可能性はあるわよ。横山さんを突き飛ばしすことは出来たけど、横山さんの反発も強くて自分も転んだって可能性」

「だけど、事故の際、横山さんは左車線、二ノ宮さんは右車線にいたはずだわ。公園は道路から見て左側にあった。二人は公園の自販機でコーヒーを購入して話をしていた。ベンチに横山さんの指紋の残ったコーヒーと、道路に彼女の指紋が残ったコーヒーがあった。彼女の証言通りなら、二ノ宮さんは横山さんを、公園から道路側へ、左から右へ押したはず。だけど、事故直後、二ノ宮さんが右、横山さんが左と逆になってる」

「もみ合いの最中に立ち位置が入れ替わった可能性もあるわ」

「二ノ宮さんの供述では、“車を確認してから”突き飛ばしたのよ? 道路の真ん中でもみ合いになった、っていうこと事態が不自然なんじゃないかしら。もみ合っているうちに車は通り過ぎていたはずだもの」

「どうして?」

「ブレーキの痕は、歩道を過ぎた位置から伸びてた。歩道の上に居た二人を通り過ぎてから、運転手はブレーキを踏んだの」

「トラックは結構なスピードが出てたってことね」

「そう。彼女の供述はそこがおかしい。実際、もみ合っている時間はなかった。だけど彼女はもみ合いになったといった」

「どうしてそんなことをいったのかな?」

「怪我の理由を作りたかった。本当のことを隠すため、彼女は嘘をついた。そして嘘を真実にするために、彼女は色々な工作をしたんだ」

「彼女は何を隠そうとしたのかしら?」

「怪我をしたのは、“突き飛ばされたのが彼女だった”から。その真実を隠すために、彼女は自分が彼を殺したことにした。その嘘を隠すために、彼女はメールや着信履歴を消したのよ」


 ――呼び出されたのは横山ではなく、二ノ宮。事故に見せかけて殺そうとしたのではなく、事故に遭いそうになった二ノ宮を突き飛ばし、轢かれた横山。

彼女は、その事実を隠すために殺人犯に成りすましたのだ。


 恐らくは、親友の一ノ瀬ほたるのために。


 だから、携帯の履歴などを消し、その指紋をふき取るくらい冷静に行動していた彼女が、車や缶コーヒーの指紋をふき取ったりはしなかった。

 発見を早めるために、埋めた遺体の一部分を露出させたり、自分の異常性を際立たせるために、彼の顔面を滅多打ちにしたりした。


 結婚前夜の新郎が、旧知の仲である新婦の親友を、彼女に内緒で夜に呼び出すだろうか。

 二人の間にどんな会話が交わされたのかはわからない。

 だけど、事故に遭いそうになった二ノ宮をかばって横山が死んでしまったことを、自分を殺人犯に仕立ててまで隠そうとしたのは、彼女自身、一ノ瀬ほたるに知られたくない事実があったのではないだろうか。


 まぶたの裏に焼きついた、彼女の空っぽになった目が思い浮かぶ。

 狂気の裏に隠した、悲しげなあの目。

 大切なもの何もかもを投げ出して、彼女が守ろうとした大切な何か。


 恐らく、そのことを一ノ瀬はどこかで感じ取っていたのではないのだろうか。

 大切な親友の、狂気に隠した優しさを。

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