第15話 試練開始

神殿の前に立つと、空気が張りつめていた。

月明りに照らされた石畳は白く輝き、扉の前で柊(しゅう)は真剣な眼差しを向けている。


「……ここから先は、戻れない」

低い声(こえ)で告げたのは長老だった。背を丸めた姿なのに、瞳は鋭く光っている。


柊(しゅう)は静かに頷(うなず)いた。

「わかっています。これが――僕の役目だから」


その横で俺は、強く唇を噛(か)んでいた。

ここまで来て、ただの人間である自分が役に立てるのか――不安が胸をしめつける。


そんな俺の手を、柊(しゅう)がぎゅっと握った。

「大丈夫、ご主人様。一緒に行こう!」


耳がふわりと現れ、尻尾(しっぽ)が揺れる。

月光に照らされるその姿は、王子としての威厳(いげん)と、どこか子猫のような無邪気さを併せて持っていた。


扉が、重々しく音を立てて開く。

中からは、冷たい風と共に淡い光が流れ出た。


「行くぞ!」

柊(しゅう)の声が響き、俺たちは同時に一歩を踏み出した。


――その瞬間、闇がざわめき、試練の幕が静かに上がった。




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