第14話 月下のひととき
夜の帳が降り、広場の喧騒が静まり返った頃。
石畳を照らす月明かりは柔らかく、国全体を包むように輝いていた。
柊と陽介は、猫族の屋敷の庭に腰を下ろしていた。
昼間の賑やかだったが嘘のように、ただ虫の音と風のささやきだけが耳に届く。
「……ご主人様、静かだね」
柊が月を見上げ、そっと笑う。
「試練の前に、こうしていられるのが少し不思議で」
陽介は隣の横顔を見ながら、胸の奥が熱くなるのを感じた。
「……お前、怖くないのか?」
柊は小さく首を振った。
「怖いよ。でも、ご主人様が隣にいてくれるなら……大丈夫だよ」
その瞬間、白い耳がぴょこんと現れ、尻尾がゆるやかに揺れる。
月明かりがその輪郭を優しく照らし、まるで幻想的な絵のようだった。
「……柊」
陽介は無意識のうちに手を伸ばし、その手を握った。
柊の心の声が響く。
(……ずっと、こうしていたい)
胸が高鳴り、陽介は言葉を返せなかった。
ただ月の下、二人の静かな時間が流れていった。
けれども――遠くで揺らめく影が、確かに近づいていた。
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