第16話 試練の真実

神殿の奥は、冷たい静寂(せいじゃく)に包まれていた。

石壁には古代文字が刻まれ、淡い光が浮かび上がっている。


長老の声が低く響いた。


「――試練とは、外の闇を斬ることではない。己の心に潜(ひそ)む影と向き合うことじゃ」


柊(しゅう)が息を呑(の)む。

「心の……影」


「王子よ。そして人間の客人(まろうど)よ。二人の絆が真実であるならば、必ずや闇を退(しりぞ)ける」


突然、大地が揺れた。

石畳の隙間から黒い靄(もや)が噴き出し、形を成(な)していく。

それは人の影にも獣の影にも見える、不定形の闇だった。


「っ……来たか!」


柊(しゅう)の耳と尻尾(しっぽ)が現れ、金色の瞳が光る。

俺は無意識に彼の隣に立っていた。

怖い。けれど、離れることだけはできなかった。


闇の中から、低い囁(ささや)きが聞こえる。


(……人間は弱い。王子を縛る足枷(あしかせ)にすぎぬ)


俺は唇を噛(か)み、柊(しゅう)の手を強く握った。


「俺は……足枷(あしかせ)なんかじゃない!」


柊(しゅう)が笑う。震えながらも、確かに笑っていた。

「そうだよ、ご主人様。あなたがいるから、僕は戦える」


闇が吠(ほ)え、神殿の試練が始まった。




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