3話〜一方通行は、寂しいもん〜


//SE 電車を歩く音


「ねえ、先輩。こんな風に手を繋いで歩くことって、ありますか?」


「あんまりないって、なんですか、ふふっ、あんまりって」

(恐怖心がなくなる)


「中学校の運動会って、いつの話ですか。ははっ、うける。あれですか、フォークダンス?」


「はい、私が行ってた学校もありましたよ。回転寿司みたいに、ペアが変わっているやつ。わたし、あれ嫌いでした。えぇ、だって、好きでもない男の子の汗にまみれた手を握るんですよ。しかも、距離感も近くなるし」


「うっわぁ、いやなこと言う~。いつも、私のこと距離感間違ってる女だと思ってたんですかぁ」


「へっ?猫?わたしのこと、猫だと思ってるの?」


「あっはは、何それ……なに、それ。いいのか、わるいのか、わかいないじゃん……うける」


「じゃあ、猫系の後輩から、先輩に1つアドバイスしてあげる。こんな風に手を繋いで歩くときはね、先輩もちゃんと力を入れて握らなきゃだめだよ。ほら、ぎゅってやって」


「うん。そのくらい。……そのくらいぎゅってやらないと、不安になっちゃうから」


「一方通行は、寂しいもん」


//SE ブレーキ音がする

(足を止める)


「先輩、いまの音」


「うん。……きっと私たちの何かに反応したんじゃないかな。手?……、それとも、う~ん、この電車もさみしいの、かな」


「うん。確かにそうかも。寂しくて、満たされたくて人間を攫ってるなら、ちょっと、可愛そうだね」


//SE 歩く音


「この車両も、何もないね」


//SE 扉が開く音


「きゃぁあ!」

(叫びながらしゃがむ)


「せんぱい、あれ、あれ。骨、だよね。人間の骨、だよね。せんぱっ、ちょっ、先にいかないで」


(ぎゅうと腕にしがみつく)


//SE 恐る恐る足を進める音


「せんぱい、これ、絶対私たちの前に来た人だよ。この二人絶対にカップルだもん。……骨になっても手をぎゅっと握ってるし、本当に死ぬ間際まで、この二人は愛し合っていたんだ……っこれが、真実の、あい」


「なんか。なんか、ちょっと、神秘的というか」


「……うらやましい」


「あー、そうだね。手掛かりを見つけないといけないですよね」

(少し暗めのトーン)


「手、も離すね」


//SE 白骨遺体付近を漁る音


「ねえ、先輩。わたし、なんとなく分かったかもしれないです」

(背後から声が聞こえる)


「やっぱり、この電車は寂しいんですよ。……寂しくて満たされたいんだと思います」


「この二人を見てると、私もね胸が少し満たされるの。ほら、あの雑誌にも恋心を食べる電車って書いてあったでしょ?……だからね、きっとそいういうことだよ」

//SE ノートが落ちる音


「せんぱい、何か落ちましたよ」


「ふふっ、手掛かりゲット、ですね。読んでみましょうね」


//SE ページをめくる音


「あっ、文字がガタガタに震えてる。やっぱり、怖いよね。……ええっと」


「『拓哉とずっと、永遠に、一緒にいるために、電車に乗った。こんなことになるなんて、思ってなかった。』ふ~ん。熱烈ですねぇ」


「『私たち以外にも、何組ものカップルが来ている。みんな、電車の外の化け物を見て怖くて泣いている』まあ、そうですよね」


//SE ページを何枚かめくる音


「おっ、ここぉ、えー、『ここ数日、皆の様子を観察して気が付いたことがある。まず、電車の中にいれば外の化け物から認識されない』ここまでは、さっき見た通りですね、先輩」


「『電車の中という閉鎖的な空間で、我慢ができずに外へ飛び出していく人がいた。外に出た途端に、大きな触手が体を持ち上げ、捕食されていたが、すべての人がそうではなかった。外に出た瞬間に鈴の音がして光に包まれて消えていく人もいた。あれが脱出の鍵だと誰もが分かって、みな外へ駆け出した。大体7割くらいの人は食べられたように思う』」


//SE ページをめくる音


「『わたしは、わたしたちは、ここに残ると決めた。幸いなことにここでは、ご飯を食べなくても生きていけるらしいから。私たちは、ここで死ぬまで二人一緒にいることにした。きっと、帰ることはできないから』」


「はぁ、ふふっ」


「ねえ、先輩。やっぱり、私の読み通りですよ。これ。私たちは、帰れますよ。よかったですね、先輩」


「ほら、先輩おいで。椅子に座ろうね」

(手を引いて椅子に座る)


//SE 歩く音

//SE 座る音


//SE 肩に頭をのせる音


「先輩、なぁんにも分かってない顔してる。ふふっ。いきなり私が落ち着いたから、戸惑ってるんでしょ」

(優しくゆっくりと話す)


「それか、私が怖い?」


「ふふっ、大丈夫だよ。安心していいから、明日にはきっと、帰れるから。今日はもうここで寝よう。先輩も疲れたでしょ?」


「ねぇ、先輩。手、握ってもいい?……いいじゃん。こわいの」


//SE 手を握る


「こうやって、頭も預けて、手を握ってるからさ、私たちってあそこの二人みたいに見えるよね」


「あぁ、ごめんなさい。怖がらないで。本当に他意はないから。……私も目を閉じるから、先輩も目を閉じて。寝よ」


//SE 長い呼吸音


「せんぱい?……ねた?ふふっ、あのね、今日は、偶然来ちゃったわけじゃなくて、私が狙ったって言ったら、先輩は怒っちゃうかな」

(囁くように)


「ふぁ……おやすみなさい」

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