Ver2.0 プロジェクト・スリープウォーキング

 ■身体障害を抱える患者特Aについて


 身長:172


 体重:62


 年齢:20


 脳レベル:正常


 意識レベル:正常


 臓器機能:衰退傾向


 身体機能:皆無


 ■確認事項


 身体のオートマトン化手術

 不可(身体が持たない)


 臓器も含めたオートマトン化手術

 不可(身体が持たない)


 脳波コントロールによるオートマトンの外部操作

 不可(患者は完全な神経感覚を求めている)


 スーツ的オートマトン外装による外部操作

 不可(患者は完全な神経感覚を求めている)


 ■結論


 意識のみをオートマトンに移し、第二の肉体としてのオートマトンを製造する


 要は


 ドッペルゲンガーである


 役員採決:済み





「なん――だこれ」


 散乱した資料を手に取るたび。


 そこには信じられないような内容が綴られていた。


 OSデカルトの改造。

 多重起動。

 人格リソースの削除など


 それは人間に例えれば、非人道的な人体実験と言っていい。


 いや、それ以上だ。


 そして、何よりも驚くべきことは、最後の資料に書かれていた。


「……!! 成功したっていうのか!?」

「しかも――全く成功した理由がわかっていないようだね」

「んで、こっちの報告書は実験用オートマトンの逃走が書かれている……」

「彼のことだね。そして――こっちには調査報告書が書かれているよ、ほら」


 トクイチから書類を受け取り、読む。


 その中身は――


 22__/04/30

 アンダー地区にて発見

 破壊処分を実行

 22__/05/02

 破壊できていないという報告を受ける

 22__/05/03

 対象オートマトンはアンダー地区を徘徊中

 協力者により、場所を特定

 治療していた医師を殺害

 アンダー地区にてIDでの追跡が途絶える

 ID偽造を確認

 ニュートラルに入ったことを確認

 その後、消息不明


 詳細な行動記録。


 第3者から提供を受けたような内容。


 そして。


これらすべては、クジが見聞きした出来事と、完全に一致していた。

 

 なぜここまで一致している?


 なぜここまで動向を知っている?


 思考するクジの中で、一つの答えが導かれた。


 「コイツらが依頼主か……!」


 全ては自業自得だったのだ。


 オートマトンの脱走も。


 エラーコード九十九の発症も


 依頼も。


 すべて。


 すべて。


 自分たちの失敗が招いた報いだったのだ。


「……これは、あまりに悲しすぎるね」

「…………」

「クジ、もし何かしたいなら急いだほうがいい」

「…………」

「この研究施設に入ったのが彼ならば……彼は知ってしまったということになる――自分が何者でもないということを」

「…………」

「エラーコード九十九が発症している状況で、この事実を突きつけられた場合どうなる?」

「…………」

「君ならよく知っているはずだ」

「…………」

「急いだほうがいい。いや――急いで助けたほうがいい、クジ」


 その言葉が終わると同時に。


 私は建物を後にした。


 向かう先は決まっている。


 CES役員御用達のホテル。


 ロイヤル区域の中央にある、摩天楼。


 すべてが悲劇になるその前に。


 急がなければならない。


 エンディングを迎える前に――





―――Ver2.0 プロジェクト・スリープウォーキング 終

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