Ver1.9 いつも悪魔は人の形をしている

 ニュートラル地区の端の端。


 そこはCES社の実験棟が規則正しく、等間隔に立ち並ぶエリア。


 通称、ベルトコンベアー。


 一定の間隔でトラックが出入りすることからきている。


「で、1つ疑問なんだんが」


 クジは前を歩くトクイチに向けて話した。


「うん?」

「なんでCセキュはこねーんだ?」

「来てほしいのかい?」

「なわけねーだろ。だが、このエリアに無断で入ったらCセキュがすっ飛んでくるはずだろ」

「基本的には、ね」

「なんだよ」

「いやぁ、君は答えにたどり着いているだろう? なぜ来ないのか」


 トクイチの言葉の意味を、クジは分かっていないわけがなかった。


 クジが導き出した答え。


 非公式実験。


 つまり、セキュリティを外し、倫理観も外している。


 そういうことなのだ


「君は本当に可愛そうだね、クジ」


 トクイチはこちらを振り向かずに言った。


「……なにがだよ」

「生い立ちもさることながら、その類まれなる才能がだよ」

「…………」

「あまりにも勘が良すぎる……苦労しただろう、今まで」

「お前の人生よりは晴れやかだよ」

「私の人生を知っているのかい?」

「知らねーけど、終わってることくらい察せるよ」

「……勘がいいね、着いたよ」


 トクイチが、足を止めた。


 そこは、何の変哲もない、普通の建物――


 が――


「……窓が割れてる」

「どうやら先を越されたみたいだね」

「先?」

「嫌な予感がするね。急いで中へ入ろう」


 トクイチがドアに触れる。


 と、ドアは既に鍵が開いていた。


 私も嫌な予感がしてきたた。


 中に入るとそこは――


 荒らされた後だった。


 床は泥だらけ。


 紙は散乱。


 奥に見える機械の装置は、破壊されているように見えた。


「まずいかなこれは……」


 トクイチは荒れた部屋を見てポツリと呟いた。


 私も部屋の中を見て回ると――


 まるで導かれるように――


 机の上に置かれた1枚の紙が目に止まった。


 そして、読んでみることにした。


 文の出だしはこうだ。


『この計画は』

『意識のみをオートマトンに移す』

『という結果を目指す』





『プロジェクト・スリープウォーキング である』





 ―――Ver1.9 いつも悪魔は人の形をしている 終




 

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