Ver1.7 選択した者
「我々への危害が激化するかもしれませんね」
「はぁ、なんでだよ」
「どうやら、依頼主はオートマトンがニュートラルへ向かった原因が我々にあると思っているようです」
「……なんでそうなる」
「なので、誰かを捕まえて、情報を吐かせようとするかもしれませんので」
「ので?」
「しばらく逃亡しましょうか」
「……は?」
という会話が1時間前にあり、私はアンダーを飛び出したのであった。
そして、向かった先は――
――ニュートラル。
そう、私はまだ追っている。
あのバカなオートマトンのことを。
やはり、どうしても気になっていた。
だって。
あいつの足取りには、意味が伴っていない。
人に自分の素性を聞いて周り、 そして、分からないという回答を得る。
いくつか繰り返していれば、普通は気づく。
『いずれ思い出すだろう』と
『とりあえず、今を生きるためにがんばろう』と
自分が何者かという遠い未来の問いから、今を生きるという近い未来の答えにたどり着く。
普通は。
しかし。
あいつは、ずっと遠くを見ている。
そして、絶望している。
何も分からない自分を受け入れられないでいる。
それは――
自分に自信があるのだ。
何かを持っていたという、自信が――
そして――
それを失った自分が、信じられないのだ。
だから、探す。
ずっと。
永久に。
答えが手に入るまで。
それがなんの答えなのかも知らずに――
「……いよいよ虫じゃねーか」
自分の心内にツッコミを入れてしまった。
あの時思わず言った例え『蛾』が、ここまでピッタリハマるとはな……
――さてどうするか。
今、堂々とあいつを追うことはできない。
私があいつに追いついた瞬間、尾行、監視していた連中が飛び出してきて終わるからだ。
そしたら全部が終わってしまう。
あのオートマトンも。
実験の中身も。
全部、闇に葬られる。
そうはさせない――
エラーコード九十九は魂の悲鳴だ。
魂を救済するのが私達の役目だ。
だから私がやるべきことは――
「相手と同時に出口を出る――だろう?」
咄嗟に後ろを振り返った。
その声には聞き覚えがあった。
悪い意味で。
なぜお前がいる。
「トクイチ……」
「やぁクジ、久しぶりだね」
編笠を被った黒いオートマトンは、丁寧に頭を下げて見せた。
―――Ver1.7 選択した者 終
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