Ver1.6 フェーズが変わる

 後頭部から伝わる冷たく重々しい感触。


 バカではない限り、これが銃であることを理解するだろう。


「依頼主に頼まれたか?」


 両手を上げながら、後ろに立つソレに聞いた。


 人だろうか、オートマトンだろうか。


 それとも軍用ドローンだろうか。


「お前は喋りすぎたらしい」

「らしいってなんだ」

「お前をここで処分する」

「噂の闇医者みたいにか?」

「知らん」

「ふーん、お仲間が他にいるってことか」

「知らん」

「じゃぁ、取引しようぜ。私を見逃せば成功報酬を8割渡す」

「信用できない」

「じゃぁ、先に手付金渡すわ、それならどうだ?」

「……」


 後頭部から一瞬だけ殺意が消えた。


 私はその間を逃さなかった。


「バーカ」


 九字護身法。


 在。


 振り向くと同時に、側頭部を蹴り上げる。


 そこにいたのは、軍用オートマトンだった。

 (随分高価なおもちゃを寄こしたな)


 軍用オートマトンは 咄嗟に私の蹴りをガードした。


 正しい判断。


 自分のほうが勝っていると考える奴の行動。


 しかし、残念。


 九字護身法を帯びた蹴りは――


 異常な結果を生む。


 私の足が軍用オートマトンに触れた瞬間。


 足が透けた。


 ガードをすり抜け。


 頭部の外装をすり抜け。


 何かに当たった感触がした。


 ああ、こりゃぁ――

 

 内部基盤だな。


 ガラス板が割れるような音と共に


 軍用オートマトンは動かなくなった。


 まるで、彫刻のように。


「……在はランダム過ぎて怖いな」


 と、言い終わると同時に、スマートフォンが鳴り出した。


 相手は――ジゥだ。


 ヤバい。


 バレたぞこれ。


「あー……もしもし?」

「今何してますか?」

「えーあー……聞き取り調査」

「嘘つけ」

「……」

「やらかしただろお前」


 やっぱりバレてる。


「まぁ、こっちもですけどね」

「はい?」

「襲われたんですよ」

「お前もやらかしたのか?」

「まさか、あなたじゃないんですから」


 ムカつく。


「クソンも先程襲われたみたいですよ」


 それを聞いて、何かが引っかかた。


 同時に。


 多発的に。


 巫巫道堂の面々が。


 狙われる。


 これは――


「――何か起きたか」

「しかも、とっておきのトラブルが――でしょうね」


 そう言われて、思い当たる節は――


 アレしかない。


「あのオートマトンか」

「それ以外ないでしょうね」

「何か掴んだか?情報」

「ロイヤルでは何も……そちらは?」

「……トナンで大量にオートマトンを買ってるやつがいるらしい」

「へぇ……」

「しかも、素体を――だ」

「CESでしょうね」

「だな」

「ただ――おかしいですね」

「ああ……CESならトナンで買う必要はない」

「自前で用意しますね」

「だから多分――」


 ジゥが先に言葉を告げた。


「非公式実験……ですか」


 その通り。


「だから、あのオートマトンはつまり――」

「実験の産物だろうな」


 と、何かが鳴る音が聞こえてきた。


 ジゥのスマートフォンからだ。


「――クジ、フェーズが変わりましたよ」

「何かあったのか?」

「クソンからです」

「なんて?」

「例のオートマトンが――ニュートラルに移動したようです

 




―――Ver1.6 フェーズが変わる 終

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