第31話 初めての仕事
朝食を取り、三人は屋敷から出かけた。
リュナをリーダーとするクランの初仕事がやってきたのである。
三人は町の入り口に向かって歩きながら、仕事の内容について簡単なブリーフィングを行うことにした。
「それでは、これから最初の仕事となりますが……ソレイユさん、何か質問はありますか!?」
リュナがヤケクソのような大声で訊ねる。
朝食の席ではリンゴのように顔を赤くしていた彼女であるが、今はどうにか持ち直していた。
まだ羞恥は見え隠れしているが、それを隠すかのように明るく振る舞っている。
「別にない。行こう」
「…………」
即答するソレイユにリュナが黙り込む。
聞かれたから返事をしただけだというのに、その反応は何だろうか。
「いえ……依頼の内容は何なのかとか、どこへ行って何をするのかとか聞かなくても良いのですか?」
溜息を吐くように、リュナが呆れた調子で言う。
言われてみれば依頼の内容を聞いていなかった。
「まあ、何でも構わないさ。リュナのことは信頼している。君がやれと言うのなら誰とだって闘ろう」
「ッ……!」
思わぬ返答を受けて、リュナが身体をのけぞらせる。
頬を赤く染めて、コホンと小さな咳払いをした。
「そ、そうですか……この短期間でどうしてそこまで信じてくださったのかはわかりませんけど、それならば結構です」
「…………?」
謎の反応にソレイユが首を傾げた。
同じ船に乗って海を旅して、同じ飯を食らい、同じ風呂に……ギリギリで入っていないが、裸を見せ合った仲である。
ソレイユとしては信頼は当然のことなのだが、リュナの反応を見るに変なことを言ってしまったらしい。
(やはり、外の世界の感覚とは齟齬があるな。無理やり合わせようとは思わないが自分がおかしいという自覚は持っていた方が良さそうだな)
「それでは、道すがら私の方から説明をさせていただきます」
主に代わり、シノアが口を開く。
「探索者の仕事は主に二種類あります。一つ目は未開地に潜って魔物と戦い成果を持ち帰ること。二つ目はギルドに寄せられた依頼を遂行することです」
「フム?」
ソレイユが首を傾げ、視線で先を促した。
「前者は魔物の素材や特殊な植物を手に入れること。これらはギルドで買い取ってもらえます。失敗したところで特にペナルティはありません。もちろん、魔物にやられて怪我をすることはあるかもしれませんけど」
「まあ、当然だな。未開地というのはそういうものだ」
「後者は依頼された品を手に入れて帰還することです。これも素材や植物だったりしますけど、時間制限が設けられていることも多く、失敗したらギルドの評価が下がってしまいます。場合によっては罰金が発生する依頼もあります」
「評価に罰金ねえ……だったら、依頼なんて受ける必要はないんじゃないか?」
「お言葉のとおり。しかし、ギルドに依頼をするのは町の住民。中には発言力のある有力者も多いです。そういった方々から信用を得ることで昇格のための推薦をもらうことができるのです」
有力者からの推薦があれば早々にランクを上げることができ、リュナ達の目的である『神竜の宝物殿』に近づくというわけである。
「それに依頼の方がシンプルに報酬が高いのです。依頼された品の買い取りにプラスして手間賃や経費分の金額を付けてもらえますから。効率よく評価と金銭を稼ぐためには、『依頼を受けて品を探す。ついでに、道中で手に入れた素材などをギルドに売る』という方法が適切ですね」
「なるほど……みんな良く考えているんだな」
ソレイユが腕を組み、感心した様子で頷いた。
利益や評価を最大限にするための工夫。
ソレイユの人生に無縁だったものだ。
腹が減ったら食う、眠たくなったら寝る、敵は斬る……そんなシンプルな生き方は外の世界では通用しないのかもしれない。
(やっぱり、クランに入ったのは正解だったな。難しいことを代わりに考えてくれて普通に助かる)
「つまり、俺達も依頼を遂行しながら魔物の素材とかを集めていく……ということで構わないか?」
「はい、その通りです」
シノアが怜悧な美貌に笑みを浮かべて首肯する。
「私どもは最短距離で、可能な限り早くランクを上げます。全ては『神竜の宝物殿』に挑戦する資格を得るために。依頼をどんどん達成していけば評判も上がり、仲間も集まることでしょう」
「一刻も早く……です」
リュナも硬い表情でつぶやく。
思い詰めたような、強い決意を固めたような表情は気になるものの、ソレイユは深く追求しなかった。
「了解、了解。それじゃあ未開地に向かおう。鬼が出るか竜が出るか……楽しみだ」
三人は連れだって、港町メーヴェの外へ出て行った。
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