第32話 未開地での戦い

『未開地』はこの世界の大部分を占める魔物の巣窟。

 過酷な環境ゆえに人が住むことができず、探索者と呼ばれる限られた戦力だけがそこを行き来することができる。


(まあ、実際には商人やら盗賊、海賊といった悪党共も渡り歩いているようだが)


「ガアアアアアアアアアッ!」


「斬るぞ」


 二メートル近い体躯の大猿が飛びかかってくる。

 ソレイユは慌てることなく刀を抜いて、横薙ぎに一閃。

 大猿の胴体を真っ二つに斬り裂いた。


「よし、次。後がつかえているからどんどん来い」


「ガアッ!」


「ギャオ、ギャオッ!」


 ソレイユが手招きをすると、仲間の大猿が威嚇するように牙を剥いた。


 そこは平原の真ん中だった。

 雲一つない晴れ渡った空の下、青々と草が茂っている。

 何とも心地好い景色であるが……そう見えるだけで、そこもまた未開地だ。

 ソレイユ達は平原に出て来て早々に大猿の群れに襲われてしまった。


「不思議だな。ここにいる魔物はどうして町の中に入ってこないんだ?」


「それは『魔物除け』が張られているからですよ。ソレイユさん」


 ソレイユの疑問に答えたのは後ろにいたリュナである。

 ソレイユの後方に陣取ったリュナは銀色の細剣を構えており、油断なく敵を睨みつけていた。

 その横にはシノアの姿もある。

 シノアが手にしているのは身長よりもやや長いサイズの槍だった。

 こちらは三人。対する大猿はソレイユが斬り捨てた分を除いて五匹もいた。


「『魔物除け』? それも魔法か?」


「似たようなものです。町を囲っている城壁に魔物を避ける性質を持った石材を使っていて、弱い魔物を遠ざける効果があるのです」


「弱い魔物だけ? 強い魔物はどうする?」


「ギャンッ!」


 疑問を口にして、さらに一匹。

 リュナと会話をしながら大猿をいともたやすく斬り伏せた。


「強い魔物がいる場所にはそもそも町は築けません。弱い魔物がいる土地をどうにか切り開き、『魔物除け』を設置してどうにか人間の生存圏を維持しているのです」


「ほー、なるほどな。色々と考えているんだな」


「ギャウウッ……」


 続けて、一匹。

 三匹目になる大猿の首に刀を突き刺して絶命させる。


 人里近くに暮らしているこの大猿は二メートル近いサイズと狂暴な牙と爪を持っているが、つまりはその程度の相手ということである。

『魔物除け』を突破できるほどの力はなく、町から出てきた人間を襲うべく待ち構えていたのだろう。


「グギャウウウウ……!」


「ガアッ! ガアッ!」


 残りの大猿は二匹。

 強がるように唸り声を上げているが、明らかに腰が引けていた。

 ソレイユに勝つことはできないとすでに察しているのだろう。逃げる機会を窺っているように見える。


「まあ、逃がさないけどな。背中を向けたら一瞬で斬ってやるよ」


「ソレイユさん、ここからは私達に任せてくれませんか?」


「ん? リュナとシノアが?」


「はい。ソレイユさんだけにお任せしてはいられませんから」


 リュナとシノアがソレイユの左右に並ぶ。

 大猿との戦いが始まってから動かず、ソレイユの戦いを見学していた彼女達であるが……どこまで戦えるのだろう?


「大丈夫か? 別に無理をせずとも構わないが?」


「問題ありませんよ。『神竜の宝物殿』を目指している探索者がこの程度の相手に手こずってなどいられません」


「今度は私とリュナ様の力もお見せいたしますわ。ソレイユ様」


 シノアが嫣然と笑み、槍をクルリと回転させる。


「そうか。じゃあ任せた」


 そこまで言うのならば是非もない。

 ソレイユが刀を鞘に納めて、後ろに下がった。


「「ガアアアアアアアアアッ!」」


 ソレイユが引いたのを見て、大猿が吠えた。

 さっきまで怯えていたというのに変わり身の早いことである。


「いきます!」


 最初に動いたのはリュナである。

 地面を蹴って、大猿の懐に飛び込んだ。


「ガアッ!」


 大猿が腕を振るって爪で切りつけてきた。

 リュナが軽やかなステップでナイフのように鋭い爪を回避する。


「ヤアッ!」


 そして、カウンターで細剣を叩きつける。

 切っ先が大猿の片目を斬り裂いた。


「ギャウッ!?」


「まだです……!」


 相手が怯んだところで、目にも留まらぬ連続攻撃。

 腋、腰、膝、脚、そして首。

 的確に硬い骨を避けて急所を狙っている。


「へえ……やるな」


 ソレイユが感心した様子で顎を撫でた。

 リュナの剣はパワーこそ欠けるが、なかなかに巧みである。

 速度も速い。海賊にやられていたのは数で押し負けたのだろう。


「ハアッ!」


 今度はシノアが動く。

 強く地面を蹴って、大猿に向けて突進。

 大猿が慌てて迎え撃とうとするが……間に合うことなく、槍の穂先が胸を貫いた。


「うん、こっちもなかなか」


 シノアは一撃必殺の剛槍の使い手のようだ。

 細腕から繰り出されたとは思えないような強烈な一撃が魔物の胸部に大きな穴を穿つ。


「ギャウッ……」


「ガ、フ……」


 二体の大猿が同時に倒れた。

 二人とも危なげない戦いぶりだった。

 上位の探索者を目指しているというのは伊達ではないらしい。


(相手が弱いというのもあるが……とりあえず、足手まといになることはなさそうだな)


「お見事」


 ソレイユは戦いを終えた二人に向けて、素直な称賛と拍手を送ったのだった。

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