第30話 新しい朝

 翌日。

 朝食の席で再びソレイユとリュナが顔を合わせた。

 リュナは食卓の椅子に座ろうとしていたところだが、ソレイユがダイニングに入ると動きを止める。


「…………!」


 そして、驚いたように小さく飛び跳ねた。

 端正に整った美貌が見る見る赤く染まっていき、肩も小刻みに震えている。


「どうした、体調不良か?」


「だ、誰のせいですかっ!」


「…………?」


 リュナが叫んだ。

 何のことだろう、ソレイユが怪訝そうに眉を潜める。


「もしかして、湯冷めしたのか? 俺達が風呂に入ったせいで」


 そして、見当違いながらも微妙に的を射た回答を口にする。


「別に気を遣わなくても良かったんだぞ。譲ってくれなくても、一緒に入れば良いじゃないか」


「で、できませんよっ。そんな、はしたない……」


「はしたない……?」


 ソレイユがますます疑問を深める。

 カグヤと暮らしていた頃は一緒の風呂、というか背中を流してやるのが当然だった。

 男女が湯を共にすることへの抵抗はソレイユにはない。


「よくわからんが……背中くらい流してやるぞ。望むのであれば全身洗ってやっても構わんが?」


「ッ……!」


 またしても的外れな言葉を吐くソレイユに、リュナが胸に手を当てて後ずさる。

 まるで警戒する猫のような仕草だった。


「そ、そんなはしたな、みだらな……」


「失礼いたします。お食事をお持ちいたしました」


 ダイニングの扉が開いてシノアが顔を出す。

 銀のトレーを押して入ってきたシノアは昨日のようなメイド服ではなく、動きやすそうな服を着ていた。


「ソレイユ様、昨晩はよく眠れましたか?」


「とても良く。あんな柔らかいベッドがこの世にあるなんて思わなかったよ」


 ソレイユが両手を広げて感嘆する。

 ソレイユに用意された客室は広々としていて家具も豪勢。まるで高級ホテルのような部屋だった。

 ベッドもスプリングがしっかりしており、布団はフワフワ、シーツはスベスベ。ソレイユが人生で味わったことのない極上の寝心地だった。


「世界は広いな。もう無人島では寝られそうにない」


「それは何よりです。それでは、料理を並べさせていただきますのでテーブルにどうぞ」


 シノアが赤面して立ちすくんでいるリュナに視線をやる。


「リュナ様も。いつまでもリンゴみたいになっていないで座ってくださいませ」


「で、でも、シノア……!」


「ソレイユ様、ところでつかぬことをお聞きしたいのですが……」


 ワナワナと唇を振るわせているリュナを無視して、再びソレイユに会話の水を向ける。


「昨晩、リュナ様のお身体を見ましたよね。ジックリと、余すところなく……どうでしたか?」


「ちょ……シノアッ!?」


 突然の話題に、リュナが雷に打たれたようにビクンと肩を跳ねさせた。

 訊ねられたソレイユは不思議そうに眉を寄せながら、それでも飾ることのない感想を述べる。


「どうって……綺麗だったぞ」


「ッ……!」


「肌は滑らかで胸は柔らかそうで、手足や体幹はしっかり鍛えられていて無駄のない筋肉がついている。論じれるほど女の身体を見たことがあるわけじゃないが、およそ理想的な肉体だったと思う」


「は……う……」


 リュナがその場に崩れ落ち、ペタンと座り込む。

 顔は先ほど以上に赤面。限界まで熱を帯びた頬が今にも破裂してしまいそうだ。


「リュナ?」


「良かったですね、リュナ様。予想以上の高評価ですよ」


 シノアがリュナに寄り添い、後ろから両肩に手を置く。


「これなら見られた甲斐があるというものです。良かったですね」


「う、恨みますよ……シノア……」


「…………?」


 いったい、何の話をしているのだろう。

 お腹が減っているので早く朝食を食べたいのだが。


(よくわからないが……きっと深い意味があるのだろうな。外の人間との付き合い方は難しい)


 ソレイユはうーんと考え込みながら、とりあえず椅子を引いてテーブルについた。


 その後、朝食の間中ずっとリュナは赤くなった顔を俯けており、シノアは愉快そうに微笑んでいたのであった。

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