第28話 リュナのお風呂

「フウ……」


 ピチャン、ピチャンと水音が鳴る。

 湯気が周りを包み、温かな熱が全身を巡っていく。

 広々とした浴室。五人は同時に入れそうなサイズの浴槽。

 そこに女神の姿があった。

 正確には、女神と見まごうほどの美女が入浴をしていた。


「まさかクランを作った初日に三人目のメンバーが見つかるなんて……しかも、それが命の恩人であるソレイユさん。これはきっと幸運なことなのでしょうね」


 浴槽で手足を伸ばしているリュナ。

 一人きりということもあり、彼女は誰に恥じることもなく裸身となっていた。

 長い手足、細い腰つき、豊かに実った乳房。

 黄金比のように整った肢体が惜しげもなく湯気の中でさらされている。


 話し合いを兼ねた食事会が終わってから、リュナは入浴をすることにした。

 ソレイユはこれから屋敷で暮らしてもらうこととして、シノアに客室への案内を頼んでいる。


「ソレイユさん……ご不快に思われたでしょうか?」


 ソレイユから『神竜の宝物殿』を目指す理由を問われて、リュナは素直に打ち明けることができなかった。

 仲間に秘密を作るなんて良くないことだ。

 もしかしたら、信用できない人間だと失望されてしまったかもしれない。

 クランに入るという話を反故にされてしまうかもしれない。

 そんなふうに悪い方に考えてしまい、湯に顔を浸けて悶々としていた。


「ウー……やっぱり、正直に話した方が良かったでしょうか? でも、そんなことをしたら嫌われてしまうかもしれません……!」


 リュナが己の胸元を指先で撫でる。

 しっとりと濡れた滑らかな肌。玉のように艶のある白いそれであったが……心臓の真上に蚯蚓腫れのような傷が走っていた。

 それは呪いの刻印である。

 リュナがこの国にやってくる原因となったものであり、『神竜の宝物殿』を目指す動機だった。


(理由を説明するためには、この呪いについても明かさなくてはいけません。でも、そうなったら……)


「ンッ……」


 リュナが苦悶に顔を歪める。

 呪いというのは邪悪の烙印だ。

 それを背負ったことに本人の過失がなかったとしても、「呪いにかけられている」という事実があるだけで差別や迫害の対象となる。

 もしもリュナが呪われていることを知れば、ソレイユから向けられる目も変わってしまうかもしれない。

 リュナはそれが恐ろしくて、肝心な情報を打ち明けることができなかったのである。


(嫌われてしまうかも、恐れられてしまうかも、忌まれてしまうかも……ソレイユさんから)


(私はそれが怖い)


(どうしても怖い……!)


 何故だろう。

 どうして、ソレイユから忌み嫌われることをここまで恐怖してしまうのだろう。

 理由がわからず、リュナは困惑する。


(目的のために協力を願うのであれば、全てを明かした方が良いに決まっている)


(そちらの方が合理的です)


(だけど、もしもそれで嫌われてしまったら?)


(ソレイユさんが離れていってしまったら?)


(クランに入るという話を撤回されてしまったら?)


(ソレイユさんはそんな人じゃない)


(そんな人じゃない……はずなのに……)


「ハア……いけませんね。逆上せてしまいそうです」


 リュナが濡れた髪を掻き上げた。

 いつの間にか長湯をしてしまったようだ。

 身体はすっかり火照っており、喉もカラカラに乾いている。

 そろそろ上がることにしよう……リュナが湯船から立ち上がった。


「お?」


「へ……?」


 だが……湯から出たタイミングで硬直することになる。

 浴室の扉が開いて、今まさに考えていた男の姿が現れたのだ。


「ああ、先に入っていたんだな。邪魔をするぞ」


 ソレイユである。

 リュナの命の恩人であり、同じクランのメンバーになった青年が気安く手を上げてくる。

 浴室ということもあってソレイユは一糸まとわぬ裸。タオルの一枚も着けていない。

 それはリュナもまた同じであり、つまるところ……


「~~~~~~~~~~っ!」


 全裸で男と向かい合っているという状況に気がつき、リュナが声にならない悲鳴を上げたのであった。

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