第27話 リュナの目的
「さあ、どうぞ。召し上がれ」
「オオッ……美味そうだ!」
広々としたダイニングに通されたソレイユの前にたくさんの料理が並べられた。
テーブルが立ち昇る芳醇な香りに、ソレイユの喉がゴクリと鳴る。
「私達の祖国の民族料理です。どうぞ、お召し上がりください」
給仕をしてくれたシノアが上品な笑みを浮かべて言う。
先ほどまで動きやすそうなパンツルックだったシノアであるが、現在は黒のワンピースと白いエプロン。いわゆるメイド服に着替えていた。
リュナはソレイユの対面の椅子に座っており、表情を輝かせるソレイユを微笑ましそうに見つめている。
「これは何という料理なんだ?」
「エルテンスープです。エンドウ豆を中心にいくつかの食材を煮込んだスープですね。今回はこの町で採れた海鮮を多く使わせていただきました」
「なるほど、なるほど! それじゃあこっちは!?」
「パネクックです。チーズとベーコン、フルーツをトッピングしたパンケーキです。モチモチとした食感でメープルシロップの味付けが絶品ですよ」
「それじゃあ、それじゃあ……!」
「フフフ……ソレイユさんってば、まるで子供みたいですね」
リュナがクスクスと笑った。
ソレイユもようやく自分がかなり恥ずかしくハシャイデいたことに気がつき、赤面する。
「あー……すまん。テーブルマナーがなっていなかったな。育て親にもよく注意されていたんだ」
「どうぞ、お気になさらず。この場には私達しかいませんから」
「そこまで喜んでいただけると恐縮です。どうぞ、お召し上がれ」
「いただきます……!」
照れ臭さを振り払うようにソレイユがフォークを手に取った。
皿を手に取り、ガツガツと料理をかっこみ始める。
「うん、美味い! これまで食べたことのない味だ!」
独特の風味と食感は師匠が作った料理ともこの国で食べた料理とも違っている。
ボキャブラティの乏しいソレイユには上手く表現することができなかったが……とにかく美味かった。
ソレイユの前には三人前以上の量が並べられていたのだが、次々と皿か空になっていく。
「す、すごいですね……そんなにお腹が空いていたんですか?」
「んー? そうでもないが、これくらい食べられるだろう」
「男の人ですね。やっぱり」
同じく食事を取っていたリュナが苦笑して、シノアがどこか誇らしそうに胸を張る。
「ソレイユさんの食べっぷりは見ていて気持ちが良いですね。そこまで喜んでいただけると作った甲斐があります」
「ああ、これはシノアが作ったんだな?」
「下ごしらえなど他の使用人にも手伝ってもらいましたが、基本的には私が作らせていただきました」
「ほほう、立派だな。料理が上手い女は良いお嫁さんになるらしいぞ」
「……恐縮です」
師匠が口にしていた言葉をそのまま言うと、シノアが面食らったように目を見張った。
「ムウ……」
そんな二人の姿に何故かリュナが不満そうな顔になった。
しかし、すぐに大きな咳払いをして話題を切り替える。
「コホン……ところで、ソレイユさん。これからのことについてお話しさせていただいても構いませんか?」
「これから? 何の話だ?」
「私達のクランの話です。今後、どのような目標と方針についてお話しさせてください」
リュナが真剣な表情になり、手にしていたスプーンをテーブルに置く。
「私達のクランは当面、魔物を退治して実績を積み、クランのランクを上げていきたいと思います。名声を得ることで優秀なメンバーを増やしていき、最終的には『神竜の宝物殿』に挑戦するつもりです」
「『神竜の宝物殿』?」
ソレイユが食事の手を休めないまま、首を傾げる。
「この町の北方にある未開地です。『ドラゴニア山脈』の頂上にある古い遺跡で、その内部には様々な財宝が残っていると語られています」
リュナが朗々とした口調で説明する。
この世界に魔物の領域……未開地は多いが、その中でもドラゴニア山脈にある『神竜の宝物殿』は伝説的な場所として知られていた。
曰く、黄金の果実が実る大樹がある。
曰く、一面に宝石が敷き詰められた砂漠がある。
曰く、あらゆる病を癒すことができる生命の泉がある。
曰く、竜を殺すことができる武器がある。
曰く、天から降り立った神人が暮らしていた古代文明がある。
『神竜の宝物殿』は多くの探索者にとって憧れの場所。目指し、挑戦するべき聖域であるという。
「ドラゴニア山脈は竜の巣窟。並の探索者では頂上にたどり着くことができず魔物のエサとなってしまいます。ゆえに、そこに入るためには冒険者ランク『ゴールド』以上に達する必要があるのです」
「おまけに五人以上のクランである必要があります。狭き門ですわ」
リュナとシノアが揃って溜息を吐く。
冒険者ランクは七段階に分かれており、下から『
登録したばかりのソレイユは『ストーン』。『シルバー』以上が一人前の冒険者とされており、『オリハルコン』に至っては伝説級で世界に何人もいないとのこと。アポなしで大抵の国の王に会うことができるそうだ。
「私とシノアは祖国でも探索者をしていたので『シルバー』ランクに達しています。『ゴールド』が五人以上いなければ、『神竜の宝物殿』に挑戦することすら叶いません」
「なるほど、なるほど。つまり当面の目的は『ゴールド』ランクに達するということか」
ソレイユが料理を咀嚼しながら頷いた。
元々、ソレイユの目的は立身出世。師匠から教わった剣で世に名を知らしめることである。
『ゴールド』どころか、『オリハルコン』ランクくらいにたどり着けなければ納得できない。
「つまり、未開地をガンガン探索。魔物を狩れば良いんだな。わかりやすくて良い」
「はい。よろしくお願いいたします」
「うんうん、ちなみに……どうして『神竜の宝物殿』とやらを目指しているのか聞いても構わないだろうか?」
「…………」
その問いに、リュナの美貌がわずかに曇る。
もしかして、聞いてはいけない事だっただろうか?
「……いずれ、時が来たらお話いたします」
リュナが憂いを込めた顔つきでそう口にしたのであった。
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