第23話 探索者ギルド

「フー……食べた食べた。腹いっぱい食べたな」


 食堂で朝食を取り、ソレイユは宿屋から出た。

 宿屋の食事は典型的な家庭料理。野菜たっぷりのポトフと白身魚のムニエル。マカロニ入りのサラダ。

 特に珍しい物ではなかったが、それでも十分にソレイユの舌を満足させてくれた。


「さて……それじゃあ今日は仕事探しだ。『ギルド』って所に行ってみようかな」


『ギルド』というのは探索者を統括している仕事の斡旋場である。

 大きな町には大抵ギルドの支部があるのだという。

 ソレイユの当面の目標は探索者として名をあげること。カグヤから貰った剣と力で『最強』を目指すことである。

 名声を得るためにも、ギルドに所属しておくのは悪くはない。


「ギルドに入って未開地へ赴き、そして魔物を倒す。金も稼げて一石二鳥だな」


 事前に、探索者ギルドの場所を宿屋の店員に聞いておいた。

 ソレイユは大通りを歩いていき、目的の場所に到着した。


「ここだな……思ったよりも普通の建物じゃないか」


『獅子』のエンブレムが掲げられたレンガ製の建物だ。

 建物はそれなりに古いが寂れた様子はなく、よく手入れと掃除がされている。


「よし、入ろう」


 ソレイユは躊躇することなく扉を開け放った。

 魔物と戦い、未開を切り開く、荒くれ者どもの住処に足を踏み入れる。


「ム?」


「あ……!」


 そして……すぐに見知った顔が目に入ってきた。

 探索者ギルドの内部は二つに分かれている。

 向かって左側は受付カウンターが設置された役所のような空間、右側は丸テーブルが並べられて酒場のようになっている。

 受付カウンターの前にいた女性……それは船で一緒になったリュナだった。


「ソレイユさん……何をしているのですか、あなたは!」


 ソレイユの姿を認めるや、リュナがズンズンと勢いよく近づいてきた。


「昨日は急にいなくなるからビックリしましたよ! いったい、どこに行っていたのですか!?」


「お、おおう……」


 急に詰め寄られてソレイユがたじろいだ。

 この再会も予想外だが、いきなり怒られたのはもっと予想外のことである。


「何故、怒られているんだ? 俺、何か悪いことしただろうか?」


「しましたよ! どうして急にいなくなってしまったのですか!?」


「どうしてって……」


 ソレイユが首を傾げる。

 ソレイユとリュナはこの町にやってくるために同行して、一緒に船旅をしてきた。

 目的地に到着した時点でお互いの目的は達せられている。

 逆に、何故去ってはいけないのか理解できなかった。


「キチンと御礼もできていないのに……せめて、別れの挨拶くらいあっても良いじゃないですか!」


「そういうものか……いや、そうか。挨拶は確かに大事だよな」


 コミュニケーション能力が低すぎて知らなかった。

 顔を合わせたら「こんにちは」。助けてもらったら「ありがとう」。

 そして、別れの際には「さようなら」。

 言われてみれば、ちゃんと挨拶するべきだったかもしれない……ソレイユは心から反省する。


「すまない。俺が間違っていた。次から気をつける」


「あ……わかってくれれば良いですけど……すみません、ちょっと怒り過ぎたかもしれません」


 ソレイユが謝罪すると、リュナが声を荒らげてしまったことを恥じて赤面する。


「言い過ぎました。ごめんなさい」


「俺も間違っていたからな。おあいこということで良いだろう。この話はこれで終わりということで」


「そうですね……ところで、ソレイユさんはここに何をしに?」


「探索者に登録するためだが……リュナは?」


「私も同じです。今しがた登録が済んだところです」


 そこまで話したところで、リュナの隣に別の女性が並んだ。


「リュナ様、そちらが昨日話していた方ですか?」


「君は?」


 リュナの隣に現れたのは青銀色の髪を揺らした美女である。


「ソレイユさんです。こっちは私の……えっと、仲間のシノアです」


「シノアと申します。リュナ様がお世話になりました」


 シノアと名乗った女性が豊満なバストに手を添えて、ソレイユに小さくお辞儀をする。


「ソレイユだ。よろしく頼む」


 ソレイユが右手を差し出した。

 挨拶の大切さを学んだので、本で読んだ『握手』というのをやってみようと思ったのだ。


「はい。こちらこそよろしく…………ッ!?」


 シノアがソレイユの手を握り返すが……途端、大きく目を見開いた。

 空のように澄んだ瞳がこぼれそうなほどに。目を丸くして唖然とした反応を見せる。


「どうかしましたか、シノア?」


「ム……俺の握手、どこかおかしかっただろうか?」


 シノアの過剰な反応にソレイユとリュナの方も驚いた。

 慌てて手を離すと、シノアは握られた手の指先を小刻みに振るわせている。


「シノア……本当にどうしたのですか?」


「いえ……申し訳ございません」


 何度も呼びかけられ、シノアが心なしか顔を青ざめさせながら首を振る。

 そして、改めてソレイユに向き直った。


「ソレイユ様……一つ相談があるのですが構いませんか?」


「何だろうか。俺は人の話をちゃんと聞くぞ」


「それでは……」


 シノアが一拍置いて、ソレイユの目を真っすぐ見つめながら言う。


「私とリュナ様と『クラン』を組んではいただけませんか? 私達と一緒に未開地の探索をしてください」

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