第22話 届かぬ師
「おおう……ガッツリ寝てしまったな」
夕飯まで仮眠するつもりだったのだが、本格的に寝てしまったらしい。
ソレイユが目を覚ますとすでに朝。東向きの窓から朝焼けが差しており、今まさに日が昇ろうという時間になっていた。
ソレイユが壁に掛けてある時計を見ると時刻は五時。
針が指す向きはベッドに横になった時と同じであるが……体内時間の感覚でわかる。たっぷり十二時間も経っていた。
「すごいな。こんなに眠ったのは初めてかもしれない……」
カグヤと暮らしていた頃には夜明けと同時に起きて、水汲みや剣の鍛錬をしていた。
半日も惰眠を貪ろうものなら、カグヤから鉄拳制裁が飛んできていた。
「よほど疲れていたのか……夕食、食べそこなってしまったな」
すでに支払った料金が無駄になってしまったが……町の露店で食べ歩きしたので、そこまで空腹感はない。
「朝食の時間まであと一時間。とりあえず……剣の鍛錬でもしておこうか」
二度寝をしてしまっても良いのだが、また寝過ごしてしまったら笑えない。
ソレイユが立ち上がり、ベッドの脇に立て掛けておいた刀を手に取った。
「それじゃあ……よろしくお願いします」
刀の柄を握りしめて、深く頭を下げる。
頭を上げると……目の前に死んだはずのカグヤが立っていた。
「
ソレイユが刀を抜いた。
迷うことなく刃を振るい、カグヤの首を刎ねようとする。
『フッ!』
だが、カグヤが鞘に入ったままの刀で斬撃を弾く。
そして、彼女もまた刀を抜いてソレイユの腰を薙いでくる。
「させるか……!」
ソレイユが刀を翻して斬撃を受け止める。
重い。腕が折れてしまいそうだ。
地面を強く踏みしめながら衝撃を堪える。
「まだまだ……!」
『ヤアッ!』
ソレイユが斬りつけ、カグヤが返す。
カグヤが斬りつけ、ソレイユが受ける。
無数の閃光の応酬。目にも留まらぬ速度の攻防。
常人の目には、二人の間で無数の火花が散っているようにしか見えないだろう。
「ッ……!」
だが、そんな激闘にも終わりがやってくる。
ソレイユの刀が弾き飛ばされて宙を舞い、地面に突き刺さった。
カグヤの刀がソレイユの首元に突き付けられており、切っ先が首の皮一枚を裂いている。
あと一ミリも刀を押し込めば、頸動脈が切れて致命傷を負っていたことだろう。
「ま、参りました……」
ソレイユが素直に敗北を宣言する。
カグヤが一歩引いて、すぐ傍にあった死の気配が遠ざかっていく。
「やっぱり、全然敵いませんね……ありがとうございました」
『…………』
礼を言うと、師の姿が煙のように掻き消える。
腰には刀。ソレイユはその柄を握りしめた格好。
カグヤから稽古をつけてもらったソレイユであるが……実際には刀を抜いてすらいなかった。
カグヤと斬り合っていたのはソレイユの脳内だけ。つまり、イメージの中で戦っていたのだ。
記憶にあるカグヤの技を思い出して、必死に斬り結んでいたのだが……まるで届かない。影すら踏むことができなかった。
「少しは強くなった気持ちでいたけど……まだまだみたいだな」
外の世界でちょっと海賊や悪党を倒したくらいで調子に乗ってはいられない。
たとえ呪いを反転させて膨大な魔力を手にしたとしても、ソレイユの剣は発展途上。偉大なる師の領域には遠く及ばなかった。
「おっと……時間だな」
いつの間にか、一時間が経過して朝食の時間になっていた。
剣を振るっていると時間を忘れてしまう。二本目をお願いしなくて良かった。
「さあ、どんなメニューが出てくるか楽しみだな」
ソレイユが腰のベルトに刀を佩いて、部屋のカギを手に取る。
足音を立てることなく部屋から出て食堂に向かって階段を下りていった。
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