第13話 篠原碧の役割

「その前にだ。お前はいったい何者なんだ。俺の知っている篠原とはまるで違う。けれど俺の認識はお前が篠原碧だと言っている」

「私は現実に生じるシステムの不具合を修正する役割。この〈ゲンジツ〉の篠原碧も同じ。だから、今も結奈瑞穂の調整をしようとパソコンの前にいるのよ。ただ、うまくいっていないみたいだから私がこうして来たのよ」

「お前の言っていることからだが、もしかして現実ってのは一つじゃねえみてえだな。そして、そのいくつもある現実のどこでもお前はこんなことをして」

 千宙は背中に粘り気のある汗を感じながら、篠原碧に迫った。

「ドッペルゲンガーって知ってる?」

 が、篠原碧はそれに応えるわけでもなく、一つの確認をした。

「自分とそっくりなヤツだろ。それと会うと、一週間以内に死ぬとかって言う」

「そうよ。あの正体はこれよ」

 篠原碧が指す指の方向には無数な結奈瑞穂が立っていた。

「つまりは、会うのはシミュラークルとかいうヤツで、現実に二人の全く同じ人間は必要ないから消滅させられるってことか」

「ご明察通り」

 乾いた拍手の音が響いた。

「あるいは、あなたの言う他の現実の同一人物と会っても同じことよ」

「あ?」

「他の現実、ある現実は完全平行。けれど、それがふいに交わることがある。磁界が変化するからよ。その理由は分かる? 人間だって電気伝導体でしょ。ふいなアクシデントでその磁界が変わるってことはあるでしょ。特にあなたが生きている〈ゲンジツ〉には多様な電流と電圧の発生源がある。となれば、いつどこに、誰でも〈ゲンジツ〉が壊れて、別の自分と出会うことだってあるのよ」

 それを聞いて千宙は、いささか興奮を覚えている自分を制しなければならなかった。

 しみったれている、そう思っていた〈ゲンジツ〉は、こうまでも奇怪でつかみどころがなく、探求に足る位相を有していた。そして彼は問うた。

「なんで、俺はこうしてここに来られた?」

 その抽象的な問いに、篠原はあきれながら答えた。

「人間ていうのは、どうして自分の思考を適切な言語で具体的に言えないのかしらね」

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