第11話 生産工場のような場所
「それでいいのかしら?」
「何がだ?」
「さっきあなたが言ったことよ」
「良いも何もない。こんなのは認めない。瑞穂を元に戻す」
「そう」
常設展示場に仕切られた壁伝いの廊下をずんずんと進んで行く。その先には非常用出口があった。煌々と光る緑色の掲示灯の下。ドアノブに手をかけたまま
「本当にいいの? ここから先を見て、後悔しないのかしらね」
再確認を篠原碧から求められて、
「無論だ。さっさと連れて行ってくれ」
「分かったわ」
篠原碧はドアを開けた。そのドアをくぐって、千宙はまず息を呑んだ。空間があった。建物の構造上にはない、生産工場のようなところだった。が、そこにあるベルトコンベアは動いておらず、音を聞けば電源が入ってはいるが動いてはいない状態だった。
ステンレスの階段は足を踏みつけるたびに大きな音を立て、施設内に響いた。
「どこ行くんだ?」
「ずっと先よ」
千宙は篠原碧の人間の柔らか味を言わない背中について行くしかなかった。
階段が終わりコンクリートの床を歩いて行く。階段から見下ろした通りに機械は動いていなかった。が、よく見てみれば操作盤の電源は「入り」や「ON」になっていた。
無言の歩み。彼は、ここまで途中でこの篠原碧が言っていたことを、嫌でも思い出していた「本当にこれでいいのか」ということを。
――よくよく考えてみれば、瑞穂があんなに大変そう日常を送っているなら、このままでも……瑞穂の本当の気持ちはどうなのだろう。もう休みたいと思っているのだろうか、俺がやろうとしていること、また動かしてしまうのは、その方があいつにとって苦痛なんじゃないか?
そんな想起をした。
「やっぱり帰る気になった?」
篠原碧はまるで彼の心象をつまんでいるかのように尋ねてきた。が、彼がそれに首を立て降ることはなかった。
「ここよ」
数十メートルの徒歩の後に、目の前には重厚な扉があった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます