おたまじゃくし
帰り道。田んぼのそばにうずくまって。おたまじゃくしを眺めていた。
おたまじゃくしは。カエルに成長するんだっけ。すると、彼らは子どもなのか。ぼくと同じだ。子どもなんだ。
水は綺麗で。夏の光にきらめいていた。本当に綺麗な水なのか? 知らない。綺麗に見えただけ。ぼくの夏も帰り道も綺麗だ。本当に綺麗なのかは知らない。
というよりも。ぼくがおたまじゃくしに似ているんだ。彼らが子どもというよりも。子どもであるぼくがおたまじゃくしなんだ。
車のクラクション。セミの鳴き声。額から落ちた汗の波紋。道に投げ出したランドセル。すべてつながっていた。蜘蛛の巣のような神様の糸で。
授業中にたびたび陥る感覚。なぜ、ぼくはここにいるんだろう。ぼくはなぜぼくなのだろう。なぜ生まれて、なぜここにいるのだろう。自分ではない幽霊になって自分を遠くから眺めている感覚。
いまは、その反対の感覚。いや、それも正確ではないかもしれない。でも、それに近い。いまは夏で。たしかにここにいるぼくが。おたまじゃくしを眺めている。
こわれものを扱うように。水に手で触れると。おたまじゃくしは逃げてしまった。
ぼくがカエルになる頃。おまえたちはもう死んでいるのかい。とっくの昔にカエルになって。とっくの昔に過ぎ去った夏に。
ぼくの手を逃れて。おたまじゃくしが逃げていく。まるでビー玉のような夏を落っことして。割れて砕けてしまうかのように。
おたまじゃくしだった、わたしの記憶。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます