第29話 闇に溶けた二人
闇の中、二人の影がひとつに溶け合った。
夕食を終え、部屋に戻った私と沙耶は、机に並んで勉強をしていた。
鉛筆の音だけが響く。
けれど、その夜の沙耶は、いつもと違っていた。
ノートに目を落としていても、視線は定まらない。
書かれる文字も、どこか弱々しかった。
何かあったと気づきながらも、私は問いかけられない。
やがて照明を落とし、二人は布団に潜り込む。
暗闇が部屋を満たし、静寂が重たくのしかかった。
眠ろうとしても、心臓の音ばかりが耳に響く。
まぶたを閉じても、沙耶の横顔が焼きついて離れなかった。
「……結菜、ちょっといい?」
下段から、かすかな声がした。
普段は私から声をかけるのに。
今夜は、沙耶の方からだった。
「こっちに来ない?」
胸が跳ねる。
ためらいながらも、私ははしごを降り、彼女の布団へ潜り込んだ。
薄い布団の中は狭く、すぐに互いの体温が混ざり合う。
一瞬、窓の外に視線をやる。
冬の街は静かで、遠くの信号の赤い光が揺れていた。
呼吸に混じる冷たい空気が、緊張を少しだけ和らげる。
沙耶の頬が濡れているのに気づき、私はそっと涙を拭った。
「大丈夫だよ」——声にはならなかったが、指先に想いを込める。
沙耶はその手を取るように、自分の頬に押し当て、目を閉じた。
吐息が重なり、頬と頬が触れる。
次の瞬間、唇が重なった。
最初はかすかな触れ合い。
けれど、すぐに抑えきれなくなり、私たちは深く求め合うように唇を重ね直した。
「……結菜」
「沙耶……」
名前を呼び合う声が、暗闇に溶けていく。
腕の力は強まり、互いの背を離せなくなった。
布団の狭さが、かえって私たちを密着させる。
肌と肌が直接触れ合い、熱がじかに伝わってくる。
沙耶の柔らかな胸の膨らみが、私の身体に押し当てられた。
その感触に息が震え、頭の奥が真っ白になる。
——姉妹であること。
——越えてはいけない境界。
背徳の痛みが、甘い熱となって全身を焼き尽くしていく。
もう止められなかった。
理性はとっくに崩れ、残っているのは彼女を求める気持ちだけ。
闇の中で、二人はひとつになった。
禁断の一線を越えて。
世界には、互いの体温と、名前を呼ぶ声だけが残されていた。
——そして、夜が明ける。
目を覚ますと、すぐ隣に沙耶の寝顔があった。
布団の中で寄り添ったまま眠っている。
夢ではない。
昨夜のすべてが現実なのだと、胸の奥で静かに理解した。
安堵と恐怖が入り混じり、
私は沙耶の横顔から目を離すことができなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます