第26話 禁断の唇
唇が触れた瞬間、後戻りできない境界線を越えてしまった。
暗闇の中、狭い布団で抱きしめ合いながら、
私と沙耶は息を潜めていた。
身体と身体が触れ合うたびに、心臓の鼓動が伝わってくる。
それなのに、言葉はひとつも出てこない。
ただ互いの体温だけが、確かな現実としてそこにあった。
「……結菜」
小さく名前を呼ばれただけで、胸が熱くなる。
涙で濡れた顔を上げると、すぐそこに沙耶の瞳があった。
光のない闇の中でも、彼女の目はまっすぐに私を見つめている。
——私はもう、引き返せない。
「好き」と口にしたその瞬間から、
私の世界は静かに変わってしまった。
そして彼女もまた、拒絶せずに抱きしめてくれている。
その事実が、全身を甘く、危うい感覚で包み込んでいく。
頬が触れ合う距離まで顔が近づく。
吐息が重なり、かすかな震えさえ伝わってくる。
互いに一歩踏み出せば、禁じられた境界を越える。
けれど、その一歩を止められない自分たちもいた。
「沙耶……」
声に出した瞬間、彼女の指が私の唇に触れた。
止めたいようで、触れたいようで——
その曖昧さが、私をさらに追い詰める。
次の瞬間、迷いながらも唇が重なった。
触れただけの口づけ。
それでも、その一瞬にすべてが込められていた。
背徳の痛みと、救いを求める渇望が同時に駆け抜け、
頭の中が真っ白になる。
「……っ」
わずかに離れた瞬間、胸が張り裂けそうだった。
暗闇の中でも、沙耶の頬が赤く染まっているのがわかる。
私の唇も熱を帯び、まだ震えていた。
「ごめん……」
彼女はそう呟いた。
けれど拒絶の色はなかった。
むしろ、迷いと同じくらいの優しさがにじんでいた。
私は首を横に振る。
謝られるようなことではない。
私が欲しかったのは、この瞬間そのものだから。
ふたりは再び見つめ合う。
けれど、もう一度踏み出す勇気はなかった。
ただ抱きしめ合ったまま、静かな夜に身を委ねる。
互いの鼓動が、布団の中の世界で確かめ合うように響き合う。
——姉妹なのに。
——一緒にいてはいけないのに。
それでも心は、もう後戻りできないほど傾き始めていた。
この初めての口づけが、二人を恋人へと変えていく。
そして胸の奥には、どうしようもない震えが残った。
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