第15話 港町で一泊
ギルドを出た時、さすがの疲労が体に現れはじめた。
そして、すくなくともドライブを探す旅は1日では終わらないことが確定したため、宿を探すことにした。
夕方になりかけてもいるが、街を練り歩く。街の人の話を聞いてまわると、海の近くに宿屋が多いらしく、結局、中央広場から再び自分達の船があった場所の方へと戻るかたちとなった。
昼間よりも夜になるにつれ、人が増えているようにも見えた。
露天では酒を飲む人も現れ始め、喧騒も増している。
「ちょっと、流石に疲れたな……」
航海の終わりから、ドライブの足取り調査までを一日でやってのけたのだから無理もない。
チューンも彼女だけが感じるという人の持つ音力といった者で見たところかなりの疲労があるようだった。
「宿はこの辺にあるらしいんだが」
海の近くになると客引きが目につくようになってきた。
「おにいさん!こっちこっちやすいヨォ〜!」
「二泊でも、三泊でも沢山のお泊まり大歓迎ですぅ〜!」
様々な者から声をかけられる。
「全く人間という種族は、
チューンは度重なる声がけにイライラしているようだった。
「ま、まあ。彼らにも事情があるんだろう」
「マオ様は真国の主だというのに、西国の。人間の肩を持つのですか……」
「いや、それは」
その時、ある一人の少女が声をかける。
「新婚さん!こっちですヨ!沢山値引きますヨ!」
その声がした瞬間。チューンはガバリと顔を上げる。
「し、し、し、新婚だなんて。そ、そ、そんなふうに見えますか。嫌だなぁ。マオ様、新婚ですって。こんな私がマオ様の、お、お、お、奥様だなんて。あははははは。嫌ですわ。おほほほほほほ」
急に水を得た魚のようにテンションが高くなるチューン。その豹変ぶりに俺だけでなく、客引きの少女もそれこそ、ドン引きしていた。
「じゃ、じゃあ君のところでお願いしようかな」
「あ。ウッス」
「ご、ごめんなさいね」
何故か自分たちが謝り、宿屋に案内される。
イメージ通り。これこそが冒険者が泊まる宿屋だと、一通りのゲームをやったことがある人間に尋ねれば「そうだ」と答える宿屋であった。
海の見える2階の部屋。新婚ということをしっかりと訂正していなかった、故にチューンと相部屋になってしまった。
彼女は大興奮し、窓を開いては閉じ、布団をひっくり返しては再度畳むなど、挙動不振が続いた。
ぐー。
腹も空いていた。しかし、表立って食事をとることはチューンの存在がバレてしまうこと、もとより彼女自身が限界を迎えていた(今は違うが)ので、近くの売店でサンドウィッチのようなものを買っておいた。とりあえず、動き回る彼女の動きを目で追いながらそれを頬張る。
しかし。
西国ウェスタ。とかいったか。
宿のベッドの近くに飾られた世界地図を見る。ここ、ポルト・アリアは西国ウェスタの東端に位置する港町だ。一日では見て回れないほどの大きさ、それこそ波止場には自分達以外にも数十隻の船が停泊していた。
だが、この地図をみるに、ポルト・アリアの面積はこの西國の中ではそこまで大きい部類にはならないらしい。
それ以上に圧倒的な広さを誇っているのが、首都であった。
首都の名は「ビャッコウ」というらしい。たしか国旗にも描かれた四聖獣の名であったか。
そのまま首都の名前としているらしい。
そしてふと、この見知らぬ文字が読めることに気がついた。これも転生者としての力なのだろうか。
ポルト・アリアから首都までは地図を目で追うだけでもかなりの距離がありそうであった。
「ま、マオ様。た、大変申し上げにくいのですが、ちょっと私、床についてもよろしいでしょうか……」
げっそりとしたチューンが声をかけてきた。なぜか額は汗まみれ。はしゃぎすぎ、疲労困憊こんぱい。空腹。考えられる不調を全て受けているといった顔つきであった。
「も、もちろん。ゆっくり休んでくれ」
「ありがたきお言葉」
そう言って、彼女はベッドに文字通り倒れた。そして、そのまま泥のように眠りについた。
自分も疲れてはいた。しかし、窓を開け、聞こえてくるひさしぶりの人々の声と街の光といった平和の風を少し感じてから眠ることにした。
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