第三章・第一節 大会への招待

 ある昼下がり。

 重蔵はいつものように、盆栽の葉を小さなハサミでチョキンと整えていた。


 その時――孫の美羽が、勢いよく玄関を開け放った。


「じいじーっ! 大変だよっ!!」


「お、おぉ? また学校でカエルでも出たか?」


「違うの! 《ゾンパニ》の公式からメールが来てるの!」


「ぞ、ぞん……? ああ、あのゾンビ騒ぎの……なんじゃったか、パンツ?」


「『ゾンビ・オブ・パニック:最終戦線』っ!」

 美羽がぷんぷんと頬をふくらませる。

 その横で、ノートパソコンの画面に光る通知。


『【公式招待】JZ-65様、国際オンライン大会への出場をお願い申し上げます。』


「……え?」

 重蔵は読めない英語をまじまじと見つめ、眼鏡をかけ直した。

「こ、これ……冗談かのう?」


「本物だよ!」

 美羽は画面をズームして見せる。

 有名配信サイトの公式ロゴ、そしてスポンサー企業の名まで並んでいる。


「世界大会、だって!」


「わ、わしゃ定年退職者じゃぞ!?」

 重蔵はハサミを落とし、盆栽の枝をぶち折った。


「いいじゃん、じいじ! “世界のポンコツ代表”って感じで!」


「お前……それ褒めておるのか?」


 そこへ翔と、その兄のタクトも駆けつける。

「JZさんマジで出るんですか!? これ、めちゃくちゃ注目されますよ!」

「うむ……しかし、ワシの腕前は“事故”の域を出んからな……」


 タクトが笑いをこらえきれずに言った。

「逆にそれが強みです。視聴者が求めてるのは完璧なプレイじゃない、“伝説”です。」


 重蔵は頭をかきながら、美羽を見た。

「……お前も、出てくれるか?」


「もちろん!」

 美羽の笑顔が弾けた。


 こうして――

 じいじ、美羽、翔、タクト。

 世代も実力もバラバラな“奇跡のチーム”が、世界大会への第一歩を踏み出した。


 画面の隅には、またもやコメントが流れていく。


「JZ-65出陣w」

「老兵、世界へwww」

「ゾンパニの神、ついに降臨」


 重蔵はお茶をすする。

「……まさか、盆栽より先に世界に出るとはのう」

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