第3話昔の影海

 次の日。綾音が教室に入ると、ざわつく声が耳に飛び込んできた。

「それでさ――影海ってさ、中学のときは超オラオラ系だったんだって。

 喧嘩売られたら相手を病院送りにしてたらしいよ」

話しているのは、影海の中学時代を知っているという男子。

「え、怖い……」「やっぱ関わらなくて正解かも」

女子たちはひそひそと囁き、綾音に目を向ける。

「水島さんも気をつけなよ。最近は優しさで関わってあげてるのかもしれないけど、元ヤンって噂だし」


 綾音は肩をすくめて笑った。

「私はその影海を見たことないし。昨日だって助けてくれたくらいだよ」

「でも、何か起きてからじゃ遅いって!」男子が食い下がる。

「大丈夫。今の影海くんは“いいやつ”だと私は思ってる」


 そのまま綾音は、教室の隅に座る影海のもとへ向かった。

「影海。今日、一緒に帰らない?」

「え……あ、でも……」

「予定あるの?」

「いや、そんな俺なんかと……」

「気にしないわよ。もう友達なんだから」

「……わ、わかった」


 放課後。二人が昇降口を出たその時――

「見つけたぞ、影帝!」

背後から鋭い声。振り向くと、金髪の男が立っていた。

「誰……?」綾音が小さくつぶやく。

影海が低く答える。「……ただの昔の知り合い」

「影帝、ヤンキーをやめたつもりか? 俺と決闘しろ。

 断るなら――この女をサンドバッグにしてやる」

男が綾音の手を乱暴に掴んだ瞬間。


 風を裂く音がした。

影海の拳が男の鼻先でピタリと止まる。

「決闘は、これで終わりだ」

影海の声に、男は青ざめて地面に尻もちをついた。

「水島さん……大丈夫だった?」

「う、うん……」

綾音はただ、その鋭い目に息を呑むしかなかった。


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