変な死に方
神戸新聞 2023年7月22日(土)朝刊
社会面(地域・神戸西版)
アパート一室で男性遺体 死後数日経過か 神戸・西区
21日午後、神戸市西区■■■町■■のアパート一室で、この部屋に住む会社員の男性(34)が死亡しているのが見つかった。兵庫県警垂水署が身元の確認と死因を調べている。
同署によると、21日正午ごろ、近隣住民から「部屋から強い臭いがする」と通報があり、署員が駆けつけたところ、室内の窓際で男性が倒れているのを発見した。すでに死亡しており、死後数日は経過しているという。
目立った外傷はなく、室内はカーテンが閉じられ、窓が段ボールで覆われていた。
男性は一人暮らしで、ここ数日、勤務先にも連絡が取れなくなっていたという。垂水署は事件性の有無を含め、慎重に調べている。
(神戸新聞・西支局)
---------------------------
「水なしの溺死」──兵庫県警OBが語る“表に出ない死”
元刑事の男性の行きつけというその喫茶店は今時珍しい喫煙OKの店で、店内は煙草の煙で霞んでいた。
「どこの署にもな、表に出せん“変てこな死に方”の仏さんが、何人かはおるもんや」
そう静かに切り出したのは、兵庫県警に長年勤めたという元刑事の男性だった。
定年後まもなく、神戸市内の喫茶店で取材を申し込んだ筆者に、コーヒーをひと口含んだあとで、ぽつりとこぼした言葉だった。
私も、警察関係者や地元記者からそうした「報道されない不審死」があることを、断片的に聞いたことはあった。だが、それがどこまで“現場の常識”として語られているのか、肌で感じたのはこのときが初めてだった。
「いらん波風を立てんように、報道発表もせん。死因は“急性心不全”とか、“病死の疑い”で片づける。それが現場の暗黙の了解やね」
彼の口調は穏やかだったが、目の奥には、どうにもならない事態に幾度も直面してきた者だけが持つ沈黙の深さがあった。
そのなかでもとりわけ「説明のつかない死」が、県内でときおり起きているという。署内でひそかに「水なしの溺死」と呼ばれている、奇妙なケースだ。
「風呂場でもプールでもない。水なんて、どこにもあらへん。乾いた畳の上や、カーペットの上で、なんでか仏さんだけがびしょ濡れになっててな。よそではなかなかないらしいで」
状況だけ聞けば、いたずらのような話だ。しかし現場写真を見れば、とても笑えたものではないという。
「ほんで、ちゃんと検視かけたら、肺に水が入ってる。完全に“溺れて死んだ”状態や。でも部屋のどこを探しても、水たまりも、ペットボトルすらもない。浴槽はカラっぽや」
彼がこれまで直接担当・立ち会いしただけでも、県内で三件。
思い返すように数を指折りながら、ぽつりと付け加えた。
「……いや、四件やな。去年(2023年)の夏に、またひとりそれで出た。西区のアパートやったわ」
遺体はいずれも外傷はなく、部屋の施錠は内側から。
「密室の自然死」として処理されてなんらおかしくはないが、死亡状況と死因がまったく噛み合わない。
「署内ではな、“あれは見んかったことにしとけ”で済ましとる。いちいち騒いでも、どうせ解明できんし、事件にもならん。科捜研が入っても“結論保留”で戻ってくるやろ」
淡々と語るその口ぶりには、警察官として長年「対処不能な死」と共存してきた諦念のようなものが滲んでいた。
「ほんまに“溺れた”んか、“溺れさせられた”んか……それすら分からん。不思議やし、不気味やわ。ただ、ああいう現場は、なんちゅうか……“見られとる”感じがするんや。どこからともなくな」
彼は煙草を取り出し、火をつけた。
「……去年の西区のアパートもな、検視が終わっていったん現場を後にするとき、塞がった窓の隙間からこっちを見られてるような視線を感じて、夏やのに首筋がうすら寒かったわ」
一服、ふーっと煙を吐き出して、首筋をさすりながら静かに灰皿に揉み消す。
「ま、記録には残っとらん。公表せんからな。そういうのは、全部“風化させる”んが一番ええやん。わざわざ思い出さんでも済むようにな」
※取材:2024年/神戸市内にて
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます