第2話 再会
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その日は、珍しく父が手を引いて、買い物に連れて行ってくれた。何かと忙しくしているか、日がな一日お酒を飲んで寝ているかのどちらかなのに、私を連れて電車を乗り継ぎ市内にある大型ショッピングモールに来ていた。
父は買い物に出てもウィンドウショッピングなどする性格でもなく、目的があればそこにしか行かない。煌びやかな女性服が立ち並ぶブースを横目に父と私は目的の場所についたようだ。
そこは幼い私には煌びやかな衣装よりも魅力的で大好物なスイーツ店だった。
父の手を握り、見つめると。
「誉! 今日はな、母さんの誕生日なんだ。昔な、ここのモンブランってのが大好きで、誉が生まれる前によく母さんとここでケーキ買ってったんだわ、そんで思い出して、買ってってやろうと思ってな。誉も好きなの選べ! な」
父は嬉しそうにそう語り、モンブランと苺のショートケーキを買ってもらった。
家に帰ると母は嬉しそうにモンブランを頬張り笑っていた。それが私も嬉しくて、どこにでもある苺のショートケーキだったけど、今でも忘れられない特別な味。
でもね、お父さん、お母さんの好きなケーキは、チョコケーキだよ────。
★
二千二十五年十月二日滅亡まで後六日
自然と目が覚めた。スマートフォンの時刻を確認するとam8:00眠った時間を思い出す。あの後、帰宅したのはam2:00頃だったはず、それを考えると早く目が覚めたようだ。
今日は月曜日、美容室は定休日で私の唯一の安息の日、心を休めるためにいつもならサウナや岩盤浴に行って、日常で蓄積した悪い灰汁を出すのが日課だけど、何もする気が起きない、なんなら昨日からお風呂にすら入っていない。巷で言う風呂キャンってやつだ。
「ワタシの説明不足でなければ、余裕綽々に見えるのは、人類滅亡を受け入れたと言うことか?」
私が住む六畳一間の賃貸マンション。私のお金で借りた私だけに許されたスペースに──侵略者が一人……そいつは見た目が小学生なだけの『神』らしい、それも人類を創造してくださったありがたーい神様らしい。実際は神と呼称しているだけで地球誕生よりもっと前に宇宙に存在し、あらゆる惑星に生物を繁栄させてきた先駆者らしい。
「ねぇ神くん、人類滅亡は信じるけど残り一週間? って随分短すぎるんじゃないの?」
神くん、名前がわからないので適当にそう呼んでいる。神くんは部屋に設置されている24インチのテレビに流れるニュース番組を瞬き一つせず観ながら私に見向きもせず言う。
「そんな事はない。ワタシタチは地球規模の惑星をその期間で創り上げる。ましてや人間は、ただ地球に湧いて出た程度の存在、さらに地球機能を著しく低下させ惑星寿命を減退させている。そんなものに猶予を与えているだけ寛大である」
「人間はすべからく滅ぶべきとでも言いたげな物言い」
然り、と古びた言を発し、私の部屋のテレビを淡々と観ている。
本当に莫迦げた話。あまりにも荒唐無稽な話すぎる、話を合わせているけど、実際はかなり半信半疑……見た目は人間の男の子だけど、公園のベンチを見るも無残な姿にしてのけた超常現象はあまりにも現実離れした光景だった。
「神君、私はどうしたらいいの? それにその判断って私にあるわけでしょ? それなら今すぐ取り消し、できないの?」
「……咲州誉よ、今お前にできることはワタシに質問することではない。行動しワタシに示せ」
神君は変わらず画面を見つめていて表情が読めない。見たって変わらないのだろうけど。
「示せってっ……何を私に示せっていうのよ!?」半ば苛立ちを隠せず音階を上げるように声を荒げ訊く。
「《生》を示せ」
画面を見つめていた少年が、勢いよく振り返り、だしぬけに言う。
「は? 生って『生きる』の生? そんなのどうやって……」
《生》この言葉を聞いて真っ先に思い浮かんだのは夢に出てきた父の顔だった。
「今、何を思い浮かべた?」
神くんは、ぐっと顔を近づけて食い入るように私の顔を観察している。急な行動にのけぞる、昨日から見ているこの少年のような神の行動にしては大胆というより、興味ありげな、そんな行動。
「言うんだ咲洲誉。滅亡してもいいのか?」
半ば脅しのような文言と無表情の圧に負け、白状する。
「……お父さん……去年死んだお父さんの顔……だから何?」
父親か、と呟くとテレビ台に置いてある写真立てを手に取りこちらに見せる。
「これがお前の父親か?」
「そう、だけど」
神君は、左手を広げ前に出し、何か呟く。すると左手が青白く発光し手のひらの中心に小さな眩い光を放つ球体が現れ、それはどんどん大きくなり大人サイズの長楕円体になり、ゆっくりと形を変え、人の形に変わっていく。
光が弱まり、それは姿を表す。
……
…………
「……────お父さん?」
「おん? 誉か? あいん変わらずしけたツラしてるじゃあねえか」
そこには紛う事なき父が立っていた。
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