第15話
赤と緑と金色の飾りが、溢れる商店街を自転車で駆け抜ける。
.......クリスマスイブ
サンタに願いをなんて、もうそんな歳じゃないけど......どうか和先輩に逢えますように。
昨日、部活の事を相談するふりをして、葵先輩に電話をかけた。そこで先輩達の予備校の場所、終る時間を聞き出した。
「.......俺......和先輩の家も知らなかったんだな」
学校と部活という、いつでも逢える状況に俺はどれだけ甘えてたんだ......
本当は和先輩に電話をして、声を聞きたかったんだけど.......待っててって言った後の先輩の行動を思うと、避けられそうで勇気が出なかった。
商店街の入口、駅の近くに教えられた予備校はあった。目の前のコンビニに入って様子を伺う。
冬期講習は21時までって言ってたから、そろそろ出てきてもいい頃なんだけど......
俺は適当に雑誌を手に取ると、予備校の入口を見つめた。
一人二人と、人が出てくる。周りが明るい場所で助かった。見逃さないように、真剣に確認する。
.......あっ.....あのコート
俺は慌てて持っていた雑誌を棚に戻すと、外に飛び出した。自転車に跨がり後を追う。
「先輩!」
俺の呼び掛けに、前を歩く二人が振り返った。
「......夏希?」
俺を見て立ち止まり、大きく目を開く和先輩。
「びっくりした.....どうした夏希.....買い物か?」
葵先輩も不思議そうな顔で尋ねる。
「......いや.....あの.....」
いざ顔を見たら、なんて言ったらいいか分からなくなる。待ち伏せなんて、変なやつと思われないかな.......
「.....もしかしてデートの帰りか?」
なかなか答えられなかった俺に、葵先輩がとんでもないことを言い出した。
「...ち.....違いますよ!」
「照れるなよー。今日はクリスマスイブだろう。羨ましいなぁ.......俺達は受験生だっていうのに」
俺の動揺をすっかり勘違いした葵先輩が、ニヤニヤしながら俺の肩に手を置いた。
思わず和先輩の顔を見ると、スッと視線が逸らされる。
「ホントに違いますって!今日は先輩達に渡したいものがあって......」
「俺達に?」
俺の答えが意外だったのか、葵先輩が肩に置いた手を下げる。
「これ.....合格祈願のお守りです」
鞄から出した小さな袋を、それぞれ先輩達に渡す。
「マジか......ごめん....変なこと言って。ありがとう夏希.....嬉しいよ」
葵先輩が袋からお守りを出して微笑んだ。
和先輩も袋を開けると、お守りを取り出した。
「....夏希、わざわざ湯島天神に行ってくれたんだ.....ありがとう....嬉しいよ」
少し大きめのコートが萌え袖になってて、両手でお守りを持ち、ふわっと微笑んだ和先輩が、あまりにも可愛くて......
サンタさん.....ありがとう
俺は心の中で叫んだ。
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