第16話
三人で並んで歩く帰り道。
俺は先輩達に、この前の練習試合の話をした。興奮気味に話を聞いてくれる葵先輩。
一方の和先輩は、うんうんって相槌を打つだけだ。
「あの高校相手に凄かったんだなぁ。ああ、予備校サボって見に行けば良かった…なあ…和」
「えっ、ああ…そうだね」
「……なんだよ、その気のない返事。俺達の屈辱を果たしてくれた試合だぞ」
葵先輩の突っ込みに慌てる和先輩。
………だって見に来てたから
俺がそう言ったら、和先輩どうするのかな……
「……先輩達、本命の受験はいつなんですか?」
「本命は1月末だよ。他にも何校か受けるから1月も2月も忙しいよな」
「……来月は追い込みだな。正月も何もないよ」
1月末か、早く来て欲しいような来て欲しくないような……お願いの内容は知りたいのに、先輩達の卒業は近づいて欲しくなかった。
「……じゃあ…俺、こっちだから…夏希、お守りありがとな」
軽く片手を上げて、葵先輩が交差点を右に曲がった。俺も手を振って先輩を見送る。
「……夏希も、もう遅いから帰りな。お前の家、逆方向だったのに付き合わせて悪かったな…」
立ち止まって、そう言った和先輩。
「……先輩の家まで送っていっちゃ駄目ですか?」
「……」
「……どうせ明日も休みだし」
「……いいけど……すぐそこだぞ」
また二人並んで歩く。二人きりになった途端に、あの香りが強くなった気がした。
……間に自転車があって良かった
引き寄せたくなる想いを障害物で抑えて、俺はなるべくゆっくりと歩いた。
住宅街は、この時間あまりに静かで、先輩の香りだけが際立っていく。
「………先輩の家って、あの公園までけっこう遠いですよね…あそこに、バスケットゴールがあるの、よく知ってましたね」
このまま進んだ先が先輩の家なら、俺の家と先輩の家は、学校と駅を挟んで反対方向にある。
ふらっと行くには少し距離のある公園。俺は疑問に思った事を口にしてみた。
「……真冬先輩に教えてもらったんだ……よくゴール練習につき合ってもらって」
やっぱり兄貴か……
俺の知らないところで繋がってる兄貴と先輩。二人仲良くシュート練習をしている姿が浮かんで、思わず自転車のブレーキをぎゅっと握った。
「……ここだよ」
突然止まった俺に、すぐ横の家を指差して先輩が言う。
「……じゃあ…気を付けて帰れよ……お守り、ありがとう………嬉しかった」
俺の目を真っ直ぐ見て言う先輩。また何日も逢えない日々が続くと思うと、何も言えない俺。
不意に、先輩の手が俺の頭に触れた。
「……良い報告出来るように頑張るから……待ってて」
髪を撫でながら微笑む先輩。広がる香り。その顔を見て思った。
もう……俺の気持ちに、とっくに気づいてるよね……
「……待ってます」
俺はその手にそっと触れると、そう呟いた。
香り @rito95
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