第13話
「.......なあ......俺にしか叶えられないお願いって何だと思う?」
昼休み、隣の席で弁当の唐揚げを頬張る親友の諒弥(りょうや)に問いかける。
「.....お前にしか叶えられないこと?今、お前が持ってる、購買で毎日五個しか売ってないアップルパイを俺にくれること」
「......それは無理」
諒弥のお願いをあっさりと却下すると、ふんと鼻を鳴らして弁当の続きを食べ始めた。
.......和先輩が言った、俺にしか叶えられないお願いって何なんだ
「あぁぁぁ......分かんない!」
いくら考えても分からないお願い、しかも受験が終わるまでその答えは聞けないなんて.......
机に頭をのせて目を閉じる。
「どーしたのかな?夏希くん」
諒弥が人の頬っぺたを指でグリグリしてくる。
「そういえば、練習試合決まったって部長が言ってたぞ」
同じバスケ部の副部長をやってる諒弥。情報は早い。
「.....どこと?」
「......うちが予選で負けたあの高校」
「.......」
俺と和先輩の仲を、さっさと引き裂いたあの高校か.....
「よし!勝つぞ」
俺は身体を起こして、アップルパイを開けた。
「急にヤル気だな」
横で諒弥が笑ってる。どうせ待つことしか出来ないなら、俺は目の前の事をこなしていくしかない。
俺は毎日部活に打ち込む事にした。試合まで二週間だ。
それでも先輩に逢いたくて、女々しいことに夜はあの公園に通っていた。
でもあの夜以来、先輩に逢える事はなくて.......
「......たまに来てるって言ってたのにな」
待つって決めたのに、心は上手く操れない。頑張ってる先輩の邪魔はしたくないのに、逢いたさだけは募っていった。
「............この香り」
ある日、公園に着いた瞬間、あの香りを感じた。来てたのかな......それとも、先輩に逢いたくて俺が作り出した感覚?
叫び出したい想いをボールに込めて、ひたすら繰り返すシュート。
このシュートが入ったら.......
願掛けなんてするタイプじゃないけど、今はそれしかできないから......
想いを込めたボールがゴールに吸い込まれていった。
二週間後、俺にとっては因縁の試合の日。
場所はうちの高校。新しいスタメンでの最初の試合。メンバーは悪くない。
「相手も新しいメンツだ.......勝てなくはないと思う」
諒弥が俺の肩に手を置いて呟く。俺もそう思う。先輩達に恥ずかしくない試合をしようと顔を上げた時、体育館の入口に想い人の姿が見えた気がした。
「あれ?」
見間違えかな.....でも俺があの人を見間違えるかな.......
もう一度入口を見たけど、そこには応援に来てる他の生徒がいるだけ。
「どうした?」
諒弥の問い掛けに首を横に振る。
今は試合に集中だ。もし、和先輩が見ているとしたら勝ちたい。
そこからは夢中だった。三年が抜けた新チーム同士、これからの大会への前哨戦だ。
結果は......
辛くも勝ち。この前の逆、ワンゴール差でうちの勝ちだ。
でも、勝ちは勝ちだ。その瞬間、俺は入口に立つ愛おしい人の姿をもう一度見た。
やっぱり本物だ。思わず姿を現してしまったという感じで、慌てて隠れるところが見えた。
.......うーん、なんで隠れる?
もしかして.....公園も?
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