第11話




「やっぱりいた!」


後ろから聞こえた声に、慌てて手を離して振り返ると、そこには頬を膨らませた葵先輩が立っていた。



「葵.......」


「.......葵先輩」



「なんで二人で来てるんだよ!俺はのけ者か!」


「.......そんなこと」



「夏期講習終わって和の教室に行ったら、もう帰ったって言われるし、携帯鳴らしても出ないし......」



「.....だって葵、今年の祭りは無理だよなって言ってたから....行く気がないのかと思って」



「だからって、声ぐらいかけろよな」


「.......ごめん....悪かったよ」



和先輩が葵先輩の肩に手を回して、あやすように謝る。



「おごれよな!」


「何でもおごるから.......機嫌直せって」



「じゃあ早速、トルネードポテトだ」



葵先輩はニヤッと笑って、もうおじさんに注文してる。




......ああ、あっという間に終わった二人きりの時間。


もうちょっと手を繋いでいたかった.......



和先輩の顔を見ると、ちょっと苦笑いをしてお店を指差した。





神社の境内、石垣になった部分に三人並んで座る。あのあと、焼きそばと綿飴を買って、すっかり機嫌が戻った葵先輩。



今は綿飴を食べて、口の周りについた飴を舌でペロペロ舐めてる。そして、残りの綿飴を黙って和先輩に差し出した。



目の前の綿飴を、当たり前のように口に入れる和先輩。


今、葵先輩が口をつけてた場所だよな.......



いらっとするのに、先輩の口元から目が離せない。飴のせいで、さらに艶めいていく唇。



唇の上で溶けていく飴と、舌使いが色っぽくて、腹の奥がずんと熱くなる。




「.......先輩達、同じ大学受験するんですか?」


自分の感情をなんとか紛らわしたくて、唐突に質問してしまった。



「......うん」


「和が、俺と離れたくないって」



「そんなこと言ってないだろう.......フフ......でも、そうかもな。葵が一緒なら安心だ」



「.......でも難しいんだよな~。和がどうしても行きたいって大学」



真ん中で、和先輩がそっと俯いた。



どうしても行きたいんだ......兄貴と同じ大学。




「大丈夫ですよ!先輩達なら.......俺も同じ大学目指します」



「夏希、どこか知らないだろう」



葵先輩が笑いながら呟いても、何も言わない和先輩。僕もあえて何も言わなかった。




「.......そろそろ花火が始まるな。ここからじゃ見えないんじゃないか?」



「そうだね、移動しようか」


先輩達が立ち上がったのを見て、俺も立ち上がる。前を歩く先輩達。




和先輩.......やっぱり兄貴のこと.......



モヤモヤした気持ちが、また膨らんでいく。いっそのこと告白して、バッサリふられた方が楽なんじゃないか......




香りとなって溢れ出した想いは、楽しいだけじゃなくて、苦しくて辛くて.......


片思いが楽しいなんて、誰が言ったんだろう。



重くなる足取りに、前を歩く和先輩が不意に振り向いた。葵先輩には分からないようにすっと差し出された手。



その手の意味は?



突然の先輩の行動に、頭が働かない......それでも、俺は迷わずその手をとった。




苦しくても.......


やっぱりその手を握りたいんだ。



握り返された手の温もりと、強く感じる香り。



目の前に大きな花火が上がった.......








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