第7話




軽いパス回しをしながら、和先輩を見る。膝下に貼られたでかい絆創膏。


動きはいつもの同じだから、擦り傷だけだったみたいだ。




「ゲーム練するぞ!」



監督の言葉で、明後日の試合に備えたゲーム形式の練習が始まった。和先輩は相手チーム。



チラッと顔を盗み見ると、スイッチの入った真剣な眼差しが返ってきた。



いつもの可愛い顔は、何処へやら。序盤からハイペースで攻めてくる。葵先輩との息も相変わらず合ってて、なんとなくムカついた俺も、攻めに転じた。




お互い譲らず、競り合って終わったゲーム練。



呼吸を整えようと、体育館の壁に凭れて座り込むと、隣に和先輩が座った。



大きく息を吐きながら、足を伸ばして座る。お互い肩が触れ合う距離にいるから、またあの香りに包まれる。




「.......夏希......なんか吹っ切れたみたいだな」



「.......そうですか?」


「うん。動きに迷いがなかった」



.......全然吹っ切れてないよ。でも、あんな真剣な顔されたら、俺の恋心なんて気にしてる場合じゃないって.......




「.......明後日、頑張ろうな。頼りにしてるから」



そう言って俺の頭を撫でる先輩の顔は、いつもの可愛い顔に戻ってて、やっぱり抱き締めたいと思うんだ。




「あー疲れた。頑張った俺も、和に、よしよしして欲しい」



頭の上で声がしたと思ったら、葵先輩が和先輩の膝に頭を乗せて寝転がった。



「葵、重たいよ」


「ごめんって~」



口では謝りながら、少し頭を動かしただけで、降ろそうとはしない葵先輩。



俺の頭を撫でていた和先輩の手が、葵先輩の髪に触れる。



「葵も、よく頑張りました」



柔らかそうな髪の間を、和先輩の指が行ったり来たりして、満足そうな顔をする葵先輩。



.......なんだよ。よしよしは、俺の方が短かった......



俺の心の声が聞こえたのか、不意に頭を掴まれて、ぐるんと身体が動かされ和先輩のもう片方の膝に頭を乗せられた。膝下の絆創膏が目の前に見える。



片方ずつの足にそれぞれの頭を乗せて、それを撫でる和先輩。



「二人とも頑張りました」



先輩の指が俺の髪をすく。すぐに感じる心地よさと、俺だけにしてくれているわけじゃないモヤモヤが入り交じる。




俺はそっと、髪に触れる和先輩の手を握った。



動きが止まった手をぎゅっと握ってみる。先輩が何も反応しないから、葵先輩は気づいてない。



バスケットボールを握るには少し小さなその手。なんであんなプレーが出来るんだろう。



不意にぎゅっと握り返された手。



先輩?



コートに向かってる顔を上に向ければ、先輩の顔が見えるのに、俺はわざとそうしないで、黙って手を握っていた。




少し強くなった香り......



先輩......この手の意味は?

俺......自惚れそうになるよ......





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