第8話




とうとう先輩達、最後の夏が始まった。



俺達の高校は、創立されてからまだ数年しかたってない新しい学校だ。そのせいか去年もその前も、県大会の予選で敗れている。



ただ着実に順位は上げてきていて、今年はもしかしたらと、皆から期待を寄せられていた。



今日の相手は、同等か少し格上の学校。初日から大事な試合ということになる。


その為か、部員全員が緊張していて固い。まさか、先輩達最後の夏を一日目に終わらせるわけにはいかない。そう思えば思うほど、身体がいつものように動かなかった。




「おーい、なにしてんだお前ら」


不意に二階の観覧席から、聞き覚えのある呑気な声が聞こえた。



「「真冬先輩!」」


みんなの視線が一斉に上を向く。



「今日から始まるんだろう、なに最後みたいな顔してんだよ。」



「先輩、来てくれたんですね」


隣で和先輩が兄貴に声をかける。



「ああ、お前との約束だからな」


見つめ合う二人。



......なんだよこの雰囲気




「楽しんだもん勝ちだぞ」


兄貴の言葉に、俺の大好きな顔で微笑んだ。



「よーし。みんないくぞ」


和先輩の声と笑顔に、みんなの緊張が和らいだ。




「お前も足を引っ張るなよ」


次々とコートに入っていく背中を見ていたら、上からもう一言声がする。



「わかってるよ!」


俺はチラッと兄貴に視線を送ると、コートに向かった。



俺だって、勝って和先輩を笑顔にしてみせるんだからな.......








ピー



試合終了を告げるホイッスル。得点板に並ぶ数字と響きわたる歓声。



勝った.......



コート中央で先輩達が手を広げた。



「やったー!!」


抱き合い円陣を組む。



正面にいる和先輩が満面の笑みで、その顔を見たら声を上げて喜びたくなる。




円陣が崩れて、それぞれが肩を抱き合ったり声を掛け合い喜んでいると、俺のところに真っ直ぐに駆け寄り抱き締めてくれたのは、和先輩だった。



「夏希、やったな」



不意を突いて思い切り吸い込んだ先輩の香り.......ああ.......くらくらする。



これは、おれも思い切り抱き締め返していい場面だよな。



先輩の身体に腕を回し抱き締める。



.......また、強くなった香り


一番に俺のところに来てくれるって、少しは期待してもいいってことだよね。


このまま連れ去りたいと思う俺は、やっぱり重症だ。




先輩が少し身体を離したのが分かって、もう一度だけぎゅっとしたあと、身体を離した。




「予選突破したみたいな喜びかただよな」


そう言う先輩の笑顔に二人で吹き出して笑った。




さあこのまま勝ち進むぞー


という俺達の意気込みは、二週間で呆気なく幕を閉じた。




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