第6話
一晩考えたって、何か答えが出る訳じゃなくて、寝不足でだるい身体を引きずって学校に着いた。
一限目は嫌いな数学で、俺は窓際の席でぼんやりと外を見ながら、ただ時間が過ぎるのを待っていた。
部活に行けば、先輩に会える。気持ちを認めた自分がこれからどうなるのか、分からないけど.......
いっそのこと香りに身を任せて、あの華奢な身体を自分の腕の中に閉じ込めてみようか.......
そんな想像に心臓がぎゅっと掴まれた時、賑やかに外を歩く集団の声が聞こえてきた。
.......体育か?
ボールを手にガヤガヤと騒ぎながら出てくる人達。
あっ....
そこには、今まさに頭の中で、俺の腕の中にいた人。
周りに笑顔を振り撒きながら、グランドに駆け降りていく。葵先輩とじゃれあいながら、サッカーボールを蹴り合う。
あの二人、本当に一緒にいるんだよな.......
幼稚園の頃からの幼なじみで、高校まで一緒ってどんだけだよ。
「本当は俺、めちゃくちゃ人見知りだったんだ。でも、葵に会って葵が皆の中に連れ出してくれたから、今みたいに誰とでも話せるようになった。感謝してるんだ」
そんな言葉を和先輩から聞いたことがある。
端から見てても、特別に感じる二人の関係。
.......ちょっと待てよ......この二人って単なる幼なじみだよな.......?
和先輩も葵先輩も、実はかなりモテる。試合の時なんか、相手の高校の女の子が黄色い声援を挙げて、相手チームが機嫌が悪くなるくらい。
なのに、二人とも彼女がいるって噂を聞いたことがない。
自分の気持ちを自覚した途端、周りの気持ちが無性に気になる。
.......いやいや......男同士だし
でも.......俺も男だ
ぐるぐる回る頭の中。始まったサッカーの試合。ボールを追いかける和先輩から目が離せない。
サッカーも上手いんだな.......
俺の身体が、自然と窓の外に向いてしまう。
今が授業中だということも、すっかり忘れて集中して見ていると、コートの左サイドでパスされたボールを受けた先輩が、相手チームの人とぶつかって撥ね飛ばされた。慌てて駆け寄る葵先輩。
少し話しかけた後、和先輩の腕の下に頭を回して抱き起こした。膝下を擦りむいたのか、血が流れてる。
怪我した?大会目前だぞ。
葵先輩に凭れるように、歩き出す和先輩。大丈夫なのか?
「先輩!」
俺は気がつくと窓から大声で叫んでた。その声に気づいて上を向いた先輩。
「おーい。夏希」
ニコニコしながら手を振ってる。大丈夫そうだ、ほっと胸を撫で下ろす。
「.......授業中なんだが」
横から先生に声をかけられて、はっと我に返った。
「......すみません」
椅子に座ると同時に、教室が笑い声に包まれる。
こんな時、つくづく思う。何で同じ歳に生まれなかったんだろう.......
同じ歳だったら、あんな時一番に駆けつけられたのは、俺だったかも知れないのに......
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