第4話




それからも、頭の中は相変わらずあの香りのことでいっぱいだった。


俺の中の何かが、先輩の香りを求めてるみたいだ。





部活中も先輩の近くに居ると、自分が抑えられなくなりそうで、わざと距離を取っていた。



そのくせ、先輩からは目が離せなくて.......



時々目が合ってしまうと、慌てて逸らす俺に先輩は不思議そうに首を傾げる。



何度か、心配そうに近づいてくる先輩を無視するように背を向けた。



だって今近づいたら......どうしてもその腕を取って、引き寄せたくなる。






休憩時間。頭からタオルを被りみんなの側から離れて座った。冷たく冷やしておいたタオルが頭の熱をとってくれる。




「.......夏希」


頭の上から声がした。とうとう和先輩に捕まったと、ますます顔が上げられない。

ドサッという音と、すぐ隣に感じる体温。あの香りが周りを包む。



「.......お前、なんか変だ」



「.......どこがですか?」


俺は、わざと何でもない風に聞き返す。



「.....俺の事....避けてないか?」


「..........そんなこと」



否定した俺のタオルが引っ張られ、顔を上げさせられる。



「.......俺......怒らせるような事した?」


「...........」



俺を真っ直ぐ見つめて、唇をぎゅっと結ぶ先輩。



だから........その顔は反則だよ。



「.......先輩の勘違いですよ。試合が近いから緊張してるんです」


苦笑いを浮かべ、その場しのぎの言い訳をする。



疑うように俺を見る先輩。立ち上がると、俺の正面にしゃがみこんだ。



「.........本当か?」


「.....本当です」


結んでいた唇が緩んで、少し心配そうに俺を見る。




ますます強くなった香りに、俺は先輩の唇に手を伸ばした。



親指でその唇をなぞる。



「......な.......何?何かついてる?」


慌てて後ろに下がろうとした、先輩の顎を指で掴む。




「.......じっとしててください」


先輩の瞳が居心地悪そうに、キョロキョロと動き出し、白い頬が薄紅色に染まっていく。


それと同時に、また強くなっていく香り。



.......俺.......何しようとしてる?





「........埃....ついてました」


その身体を引き寄せようと、左手が動き出す寸前のところで口をついて出た言葉。



「......えっ?うそ.......ありがとう。さっき倉庫に入った時かなぁ」


「...........」


先輩が手の甲で、唇をごしごしと擦った。





「和先輩ー!」


一年生のマネージャーが呼ぶ声に振り向く先輩。


「今、行くー!」



「.......夏希、スタメンのプレッシャーは分かるけど、あんまり気負いすぎるなよ。何でも相談にのるから」



そう言い残して、バタバタと目の前から走り去った。




はぁ.......スタメンのプレッシャーだったら、どんなにいいか.......



あんたに触れたいのを必死で堪えてるなんて.......相談出来るわけないだろう.......









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