第8話 獣人レオと小さなご主人様との始まり

 

「なんだよそれ?俺は人間には従わないぞ」


「馬鹿か、これは命令だ。最初だけは俺が面倒を見てやるから、安心するんだな」


 レオは歯を食いしばり、ぶつぶつ文句を言いながら苛立ちをぶつけた。


「チッ、まじムカつく…俺のこと舐めてんのか!?」


「そういう契約だ。またあの場所に戻りたいのか?」


 その問いに、レオの耳がぴたりと垂れる。


「……それは嫌だ」


 俯いたまま小さく呟いた言葉の奥に、過去の傷がにじんでいた。


「でも…具体的には何をするんだ?ご主人様を狙う奴らから守る訓練じゃないのか?」


「まあ、それは後回しだな。まずは、僕のそばに置いても恥ずかしくないように、礼儀作法…つまり食事作法や立ち居振る舞い、言葉遣いといった人として最低限身につけておくべき基礎からだ」


「礼儀作法?ふん、そんなの必要ないね!俺の礼儀は完璧だ!」


 レオは二本足で立ち上がり、誇らしげに胸を反らし鼻で笑う。


「もともとは高貴な血筋だったんだからな!」


「……ここでは血筋は何の役にも立たない。役に立つのは、獣人特有の身体能力の高さだけだ。」


 リオルの冷たい言葉に、レオは思わず呆然と床を見つめた。


「じゃあ……ここでは俺に価値はないってことか…?」


 沈黙が部屋を支配する。


 胸の奥で渦巻く悔しさと怒りを押し込むように、やがてレオは顔を上げた。その瞳には鋭い光と決意が宿り、リオルをまっすぐ睨む。


「それでも俺は、ご主人様に屈したりしないぞ!」


 リオルは薄く笑みを浮かべ、挑戦的な視線を返す。


「…そうか。なら完璧にマスターして、僕を見返してみるんだな」


「いいだろう、そのゲーム乗ってやるよ。ただし、覚えておけ。後悔するのはご主人様だってことをな」


 ――こうして、獣人レオと小さなご主人様の奇妙な関係が始まった。

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