第6話 名に刻む決意

「……どうして、その名なんだ?」


「ラテン語で『レオ』はライオンを意味する。見た目が似ているからでもあるが…獣人としての誇りや力、生き抜く強さを、僕に見せてみろ」


 リオルの言葉に、レオの瞳が大きく見開かれた。やがて、その奥に確かな意志の光が宿る。


「……レオ、か。わかった。今日から俺はレオだ」


「ああ、覚えておけ」


 レオは膝をつき、決意に満ちた表情でリオルを見上げた。


「俺……いや、レオはご主人様に忠誠を誓う。だから……頼む、俺を捨てるようなことはしないでくれ」


「お前も、僕を裏切るようなことはするなよ」


 レオの顔にわずかな安堵が広がる。


「もちろんだ。俺は絶対にご主人様を裏切ったりしない!」


 ――その時、レオのお腹からグーッと間の抜けた音が響いた。


「……ふっ。来い、食事だ」


 恥ずかしそうに耳を伏せながらも、レオは期待をにじませた目でリオルの後をついていく。


「こ、これは……?」


 目の前に置かれたのは、見たこともないほど分厚く焼かれたステーキだった。


「食べろ」


 促されるまま、ぎこちなくフォークを手に取り、恐る恐る肉にかぶりつく。ピタリと動きが止まり、瞳が驚きに見開かれた。


「……な、なんだこれ……」


 噛むたびに肉汁があふれ、香ばしい香りが口いっぱいに広がる。レオは夢中でステーキを頬張った。


 その食べっぷりに、リオルは呆れたように眉をひそめる。


「……はぁ。食事のマナーも、明日から叩き込まないとな」


 ステーキを平らげたレオは、どこか照れくさそうに言った。


「ご主人様、本当にありがとう。こんな食事を与えてくれるなんて…」


「警戒心が薄いな、毒でも入ってたら死んでるぞ」


 レオの瞳孔が大きくなる。


「……あんたは、そんな卑怯なことはしないと思いたい」


「たとえ僕がしなくても、他のやつがするかもしれないだろ」


 レオは考え込むように一瞬黙り、ゆっくり頷いた。


「…そうだな。世の中には悪い奴もたくさんいるからな」


 そう言い終えると、レオが思わずくしゃみをした


「なんだ、寒いのか?」


「いや、そういうわけじゃなくて…ただ、ちょっと暑かっただけだ」


 言葉とは裏腹に、体は微かに震えていた。


 リオルは静かに立ち上がり、一歩近づいて自分の上着を差し出す。


「な、なんのつもりだ」


「ついてこい」

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