第3話 屋敷への道

 檻の中から獣人がゆっくり立ち上がり、リオルに向かって一歩踏み出した。


「これで本当に地獄から抜け出せるのか?」


 希望と疑念が混ざった眼差しで、獣人はリオルを探るように見つめた。


「そうだ。お前は僕についてくればいい」


「あんたについていけば、俺のしたいことが叶うのか?」


「…お前のしたいこと?」


 少しの沈黙のあと、獣人は低く、はっきりと言った。


「俺がすることはあんたについていくこと。そして、俺をこんな目に合わせた人間たちに…復讐することだ」


 リオルは一瞬目を細め、表情を変えずに淡々と告げた。


「…お前がしたいことはわかった。ただし、それを実行するには策を練らないといけない。頭を使え。闇雲に殺せば、結局ここに戻るだけだ」


 獣人はしばらく考え込む素振りを見せ、やがて短く息を吐いた。


「わかってる。焦りは禁物だってことくらい。ここでまた苦しみたくないからな」


「じゃあ、まずはあんたの家に行くのか?それともこのまま策を練るのか?」


 リオルは獣人を上から下まで眺めた。


「ひとまず、僕の家だ。まずはその汚い身なりをなんとかする」


 商人に声をかけ、金を払い、彼を自分の家へ連れていった。


 馬車から降りると、獣人はリオルの後ろについて歩き、周囲を見回した。


「……ここが、これから俺が住む場所か?」


「そうだ」


 目を大きく見開き、彼は自分の置かれた状況を信じられない様子だった。


「…本当に、ここが俺の新しい居場所なのか?」


 ちらりとリオルに視線を向ける。


「さっき言ってたけど…俺の身なりを整えてくれるのか?」


「ああ、まずは風呂だ。入ったこと……ないのか?」


 彼は目を伏せ、過去を思い返すように静かに頷いた。


「……見世物小屋じゃ、水を浴びることすらまともにできなかった」


「そうか。それじゃあ今日から毎日入ることだな。水じゃなくてお湯を使うんだ。ついてこい」


「ま、まさか……お湯に毎日入れるのか?」


「当然だ」


 驚きを隠せない表情で、彼はリオルに尋ねた。


「あ、あの……俺が入ってる間、あんたはどうするんだ?」


「今日はお前に洗い方を教えてやる。次からは一人で入れ」


 リオルから目をそらし、呟くように声を漏らした。


「教えてくれるのか?あんたが?」

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