第6話 放課後の初耳
クロエに手首を掴まれたまま
キーンコーンカーンコーン。
下校時刻を知らせるチャイムが鳴り響く。
「あ、もうこんな時間かー。お喋りしてるとあっという間ねぇー」
外と行き来できるガラスの扉越しに夕暮れの空を見ながら呟くと、クルンッと体を前に戻す。
「生徒は帰る時間だけど……」
その目が握られたままの手を見た。
「帰れそうですよ」
「え?」
先ほどのチャイムの音で、握る力が緩んだのか、ゆっくりと手を引き抜く。
「ふぅ……。先生、後はお願いしてもいいですか」
「ふふっ、わかったわ」
保険室を出て誰もいない廊下を進み、教室の扉を開けて中に入ると、
「おっ」
風の当たる自分の席に美智留が腰かけて本を読んでいた。
「またそこで読んでるのか?」
彼女はページから目を離し、顔をそちらに向けた。
「今から帰るのか?」
「………………」
「なんだよ」
――二か月程度の関係じゃ、まだまだってことか。
「もしかして、待っていてくれたのか?」
「……彼女は」
「今、保健室で休んでるよ」
「保健室?」
「ああぁ、ちょっと疲れたみたいでな。先生の話じゃ少し休めば良くなるってるさ」
カバンを肩にかけると、クロエの席からカバンを手に持った。
「俺はこれを保健室に届けてくるけど、一緒に帰るか?」
「…………ん」
美智留はコクリと頷くと、本をカバンにしまって席を立った。
無表情なのは相変わらずだが、ほんのちょっとだけ機嫌が良くなったように見える。気のせいかもしれないが。
その後。美智留が先に昇降口に行っている間にカバンを保健室に持って行くと、昇降口に向かった。
そして靴を履き替えて外に出ると、吹き抜けるその気持ちいい風に自然と腕が伸びる。
「んんっ~……はあぁぁぁ…………おっ」
玄関を出たところでしゃがんで靴紐を結ぶ女子生徒が振り返った。
「部活帰りか?」
「あ、お兄ちゃん」
「そうだけど、珍しいじゃん。お兄ちゃんがこんな時間まで学校にいるなんて」
「そんな日もあるだろ」
「いや、ないでしょ? あたしが帰ったら、いっつもソファーでゴロゴロしてるじゃん」
「うっ、うぅーん……」
「………………」
「えっと……こんにちは」
優莉がペコリとお辞儀をすると、美智留はコクッと顎を下げた。
一応二人は面識があるが、いつもどこかぎこちない。
優莉は意外と人見知りで、美智留も、もちろん人見知り。そんな二人が対面しても、話に花が咲くわけもなく。
………………………………………………。
――なんだよ、この時間……。
「――あら。二人とも、今から帰るところだったの?」
そこに割って入るかのように声をかけてきたのは、
「母さん? どうしたんだよ」
「さっき学校から迎えに来てほしいって連絡があったの」
「連絡? 迎えって?」
優莉と目を合わせると、なにか心当たりがあるのか、テンションの高い声で言った。
「もしかして、今日来る人を迎えに来たの?♪」
「えぇ、そうよ」
「今日来る? 誰が?」
「誰って――――今日から
「…………は?」
寝耳に水にも程がある。
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